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第七十四話 式神が呼ぶ式神


 武術の試験が終わり、いよいよ最後の実技試験が始まる。


「最後の科目は――式神術」


正臣が静かに告げた。


教師たちはどこか安堵した表情を浮かべる。


「さすがに……」


「もうこれ以上、驚かされることはないだろう」


紫苑も小さく頷く。


「今日は十分驚かされましたからね」


神門玄も苦笑した。


「今度こそ普通の試験でしょう」


その様子を見ていた沙羅とミヅチ、クシナダ、チヨヒメ、珠代、銀花たちは顔を見合わせる。


全員、悪い笑顔だった。


「くくっ……」


「まだ始まってもおらんぞ」


「楽しみじゃのう」


それを見た正臣、紫苑、玄は同時にため息をつく。


「……まだ何かあるのか」


「もう勘弁してください」


試験は順調に進んでいく。


一年一組の生徒たちが、それぞれ成長した式神を披露していく。


そして最初に大きな歓声を上げさせたのは――。


「麻賀多凛」


凛が札を掲げる。


「来て!」


眩い光の中から現れたのは白鷲。


しかし以前とは違う。


その身体は一回り、いや二回りも大きくなっていた。


「大鷲……」


霊力が安定したことで、式神も成長していたのだ。


白鷲は翼を大きく広げる。


凛を優しく背中へ乗せると、大空へ舞い上がった。


「わぁ!」


観客席から歓声が響く。


「空を飛んだ!」


凛は嬉しそうに白鷲の首を撫でた。


続いて――。


「麻賀多道満」


道満が静かに札を掲げる。


現れたのは白銀の狐。


だが。


以前は三本だった尾が――。


五本へ増えていた。


身体も一回り大きくなり、神々しささえ感じさせる。


「五尾になったか」


道秀が満足そうに頷く。


教師たちも感嘆の声を漏らした。


しかし。


この日の式神術で一番皆を驚かせたのは――。


「木之子小夜」


小夜が静かに術を唱える。


大地から柔らかな光が立ち昇る。


そこから姿を現したのは。


二匹の巨大な白狼。


番いの霊獣だった。


会場が静まり返る。


「霊獣……」


「森の守護者だ……」


誰かが小さく呟く。


二匹は小夜の前まで歩み寄る。


静かに頭を垂れ、小夜へ挨拶する。


小夜も丁寧に頭を下げた。


そして白狼たちは小夜の両脇へ控えた。


その神々しい姿に、誰も言葉を失う。


「まさか初等部一年で霊獣とは……」


正臣は思わず頭を抱えた。


そして。


最後の発表。


「桜晴真」


「はい!」


晴真が前へ出る。


「式神術!」


「おいで!」


ぽんっ。


小さな光とともに現れたのは。


銀花によく似た小さな女の子。


「桜花です!」


ぺこりと頭を下げる。


刀也と迅が同時に吹き出した。


「ぶははは!」


「晴真!」


「銀花さんそっくりのお人形じゃねぇか!」


与一も口元を押さえながら笑いを堪えている。


すると。


桜花がぷくっと頬を膨らませた。


「ご主人様を馬鹿にするとは……」


「懲らしめます!」


小さな手を突き出す。


「雷撃の術!」


パチパチッ!!


小さな雷が飛ぶ。


「うわぁぁっ!」


「しびれるーっ!」


刀也と迅が感電し、その場で飛び跳ねる。


女子たちはその様子を見て笑った。


「かわいい!」


「桜花ちゃん可愛い!」


「怒ってても可愛い!」


紅葉たちは目を輝かせる。


だが。


教師たちだけは違った。


正臣。


紫苑。


玄。


三人は目を見開いた。


「……霊童」


誰かが震える声で呟いた。


その様子を見て。


沙羅たち神の眷属は肩を震わせながら笑っている。


「まだじゃ」


「本番はここからじゃ」


晴真は何も気にせず、掌を前へ差し出した。


一本の霊脈を掌へ繋ぐ。


その上へ桜花がちょこんと乗る。


晴真は霊力をゆっくり流し込んだ。


桜花は嬉しそうに頷く。


そして。


四枚の桜の花びらを取り出した。


「咲いてください!」


花びらが光り始める。


やがて。


一枚ずつ人型へ姿を変えていった。


現れたのは四人。


一葉によく似た少女。


二葉によく似た少女。


三葉によく似た少女。


そして珠代によく似た少女。


「なっ……!?」


「人型式神が四体!?」


教師陣が総立ちになる。


桜花が嬉しそうに紹介した。


「桜童です!」


四体の桜童は感情も表情もなく、静かに頭を下げた。


言葉は話さない。


だが陰陽術を扱える式神だった。


桜花は胸を張る。


「一桜!」


「二桜!」


「三桜!」


名前を付けられた三体は同時に札を掲げる。


「火球の術」


三つの火球が美しく浮かび上がる。


しかも。


晴真の霊力と繋がっているため、どの火球も安定していた。


「四桜!」


珠代によく似た桜童が前へ出る。


静かに両手を合わせる。


「結界」


透明な結界が会場を包み込んだ。


その完成度は初等部とは思えないほどだった。


静寂。


そして次の瞬間。


神の眷属たちが大笑いした。


「かっかっかっ!」


「式神が!」


「式神を呼びおったぞ!」


「こんなもの初めて見たわ!」


涙を流して笑うミヅチ。


腹を抱えるクシナダ。


チヨヒメも珠代も笑いが止まらない。


教師陣は完全に思考停止していた。


「……」


「もう」


「何が普通なのか分からない」


そんな中。


晴真は首を傾げる。


「桜花」


「みんな、どうしたんだろうね?」


桜花も不思議そうに首を傾げた。


「分かりません」


「変ですね」


二人だけが、会場で何が起きているのか全く理解していなかった。

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