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第七十三話 速さの先にあるもの


 凛と紅葉の試合が終わり、一年一組最後の試合が始まる。


「最終試合」


正臣が二人の名を呼んだ。


「麻賀多道満」


「麻倉迅」


「はい」


「ああ」


二人が試験場中央で向かい合う。


礼を交わすと、迅が口元を緩めた。


「道満」


「俺は刀也と違って油断はしねぇ」


「お前が、とんでもない才能の持ち主なのも分かってる」


迅は刀へ手を添える。


「だから」


「最初から全力で行く!」


道満は静かに頷いた。


「望むところだ」


「始め!」


正臣の合図。


その瞬間だった。


「立身流・巡らせ!」


迅は霊力を全身へ巡らせる。


さらに。


「風遁・疾風脚!」


ドンッ!


爆発するような踏み込み。


一瞬で道満の視界から姿が消えた。


「速い!」


観客席がどよめく。


迅は道満の周囲を風のような速さで駆け回る。


右。


左。


背後。


目にも止まらぬ速度で位置を変えながら、道満の隙を探っていた。


一方の道満は静かに巡らせを行い、居合の構えを崩さない。


しかし――。


(速い……)


(目で追えない)


額に汗が流れる。


その時、道満は凛の戦いを思い出した。


(二重巡らせ……)


(ならば、さらに巡らせをする)


(そして)


(小夜は綾女を森羅聴で捉えた)


(ならば)


(目で見る必要はない)


(あれだけの速さを出すなら、霊力を相当消費しているはず)


(霊力を感じればいい)


道満は静かに意識を広げた。


霊力探知。


目ではなく、霊力の流れを読む。


「……」


迅の位置がぼんやりと浮かび上がる。


だが。


「やはり速い」


霊力を感じても、動きは凄まじい。


(ならば……)


(誘うか)


道満はわざと身体を開き、大きな隙を作った。


その瞬間。


迅の目が光る。


(勝機!)


「紫電疾風一閃!」


雷のような速さで踏み込む。


疾風脚の勢いをそのまま乗せた居合。


必殺の一撃だった。


道満も静かに刀へ手を添える。


「……」


派手な気迫はない。


ただ。


力みのない自然な居合。


迅が刀を抜こうとした、その瞬間。


シュッ――。


一筋の銀光。


静寂。


迅は動きを止めた。


自分の刀は、まだ半分も鞘から抜けていない。


一方。


道満の刀は、すでに鞘へ納められていた。


その切っ先は、迅の首元へ届いていた。


正臣が静かに告げる。


「勝者」


「麻賀多道満」


会場が静まり返る。


迅は呆然としていた。


(油断はしていない)


(最高の技を)


(相手の隙を見て放った)


(なのに……)


(ただの居合に負けた)


悔しかった。


涙が出そうになる。


二人は中央で向き合い、深く礼を交わした。


その時。


「二人とも」


刀斎が静かに呼ぶ。


迅と道満は刀斎の前へ並んだ。


刀斎は迅へ尋ねる。


「迅」


「何故負けたと思う」


迅は悔しそうに答えた。


「俺が」


「道満より遅かったからです」


刀斎は首を横へ振る。


「違う」


今度は道満を見る。


「道満」


「迅は遅かったか?」


道満も首を振った。


「いいえ」


「凄まじく速かったです」


「目ではまったく追えませんでした」


迅は驚いた。


「でも」


「居合で合わせてきたじゃないか」


道満は静かに答える。


「目で追えなかったから」


「霊力探知を使った」


「それで居場所は分かった」


「でもそれでも速かった」


「だから」


「わざと隙を作って誘ったんだ」


迅は目を見開く。


刀斎は静かに頷いた。


「どれほど速くとも」


「勝機を焦り」


「相手の作った隙へ自ら飛び込めば」


「こうなる」


刀斎は迅の肩へ手を置く。


「迅」


「戦いは速さだけではない」


「頭を使え」


「戦略を立て」


「勝負の流れを掴むのじゃ」


迅は深く頭を下げた。


「……はい!」


その返事には、先ほどまでの悔しさだけではなく、新たな決意が込められていた。


隣で道満も静かに頷く。


刀斎は満足そうに二人を見つめるのだった。

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