第七十一話 ライバル
試験場中央へ歩み出たのは、麻賀多凛と麻賀多紅葉。
同じ麻賀多一族。
二人は、どこか似ていた。
真面目で努力家。
負けず嫌い。
互いを強く意識し、高め合ってきた存在だった。
ただ一つ違うのは――。
紅葉の対抗心は人一倍強かった。
(陰陽術では凛に一歩遅れを取っている)
(でも)
(武術だけは絶対に負けない)
幼い頃から薙刀だけを信じ、鍛え続けてきた。
その積み重ねだけは誰にも負けない。
二人が礼を交わす。
「始め!」
正臣の合図と同時に紅葉が一気に踏み込んだ。
小夜と綾女の試合を思わせるような速さ。
薙刀が袈裟斬りに振り下ろされる。
凛は左手の小太刀でその一撃を受け流した。
キィン!
そのまま右手の小太刀で反撃へ移る。
しかし。
「甘い」
紅葉は薙刀の柄で凛の小太刀を叩き落とすように迎え撃つ。
間合いへ入らせない。
長い武器ならではの間合い。
凛は一歩退く。
(やっぱり……)
(近付かせてくれない)
凛は静かに霊力を巡らせた。
身体強化。
一気に速度が上がる。
「!」
再び踏み込む。
神楽双刃術。
舞うような足運び。
左右から小太刀が繰り出される。
紅葉は薙刀を巧みに操り、紙一重でかわし続ける。
返し技を狙う。
だが。
凛はさらに霊力を巡らせた。
「えっ!?」
観客席から驚きの声が上がる。
二重の巡らせ。
身体能力がさらに引き上がる。
速度は一気に跳ね上がった。
凛の姿が舞う。
神楽のような軽やかな足運び。
「神楽双刃術・桜舞四方!」
四方へ凛の残像が現れる。
本物はどこだ。
四方八方から一斉に小太刀が迫る。
「……」
紅葉は静かに呟いた。
「あまり使いたくないのですが」
薙刀を構え直す。
「岩富流薙刀術」
祝詞を唱える。
「金剛力」
霊力が全身へ駆け巡る。
身体強化。
「岩富流薙刀術・震地波!」
さらに薙刀を地面へ突き立てた。
ドォンッ!!
地面を通して霊力が爆発する。
衝撃波が試験場全体へ広がった。
「きゃっ!」
踏み込んでいた凛は体勢を崩し、そのまま吹き飛ばされる。
受け身を取った瞬間。
目の前には薙刀の刃。
喉元を静かに制されていた。
正臣が静かに宣言する。
「勝者」
「麻賀多紅葉」
大きな拍手が湧き起こる。
紅葉はすぐ薙刀を下ろし、凛へ手を差し伸べた。
「立てますか?」
凛は笑顔でその手を握る。
「ありがとう」
立ち上がった凛を見て、紅葉は少し照れながら言った。
「悪くないと思いますよ」
「その小太刀の二刀流」
凛は嬉しそうに笑う。
「本当?」
紅葉は少し顔を赤くしながら視線を逸らした。
「……でも」
「まだ私の方が上ですけどね」
凛はくすっと笑う。
「うん」
「そうだね」
その素直な返事に、紅葉も思わず笑みを浮かべた。
二人は向き合い、改めて深く礼を交わす。
その時だった。
観客席へ戻ろうとした凛の視線が、一組の老夫婦で止まる。
白髪の老夫婦。
二人とも涙を流しながら、凛だけを優しく見つめていた。
「……?」
凛は首を傾げる。
(誰だろう……)
不思議な懐かしさだけが胸に残った。




