第六十九話 武の一歩
陰陽術の試験が終わり、続いて武術の試験が始まった。
武術の試験は陰陽術とは違い、保護者も見学できる。
観客席には多くの家族が集まっていた。
御堂晴時。
照美。
陽香。
紫乃。
皆、晴真の試験を楽しみにしている。
「晴真兄ちゃん 頑張れー!」
陽香が大きく手を振る。
晴真も笑顔で手を振り返した。
⸻
次々と生徒たちが成果を披露していく。
刀術。
薙刀。
槍術。
体術。
皆、この日のために積み重ねてきた努力を見せていた。
そして。
四人の中で最初に呼ばれたのは――。
「桜晴真」
「はい!」
続いて。
「立身刀也」
「おう!」
二人が試験場中央へ向かう。
その時だった。
刀也は思わず眉をひそめた。
「……おい」
「何?」
「晴真!」
「武器は?」
晴真の手には何もない。
素手だった。
刀也はムッとした表情になる。
(剣を持っても俺には勝てない)
(なのに素手だと……)
「ふざけるな」
「剣を持て」
晴真は困ったように笑う。
「大丈夫」
「やってみなきゃ分からないよ」
その言葉が刀也の闘志に火を付けた。
「……上等だ」
「一撃で終わらせてやる!」
刀也は霊力を全身へ巡らせる。
立身流・巡らせ。
身体能力が一気に引き上がる。
晴真も静かに巡らせを行う。
さらに深く集中する。
その瞬間――。
晴真の金桜眼が淡く輝いた。
⸻
「始め!」
正臣の合図。
ドンッ!!
二人が同時に踏み込む。
「速い!」
観客席から驚きの声が上がる。
刀也の踏み込みは、これまでで最速だった。
だが。
晴真の金色に輝く瞳には、その動きがゆっくりと見えていた。
(速い……)
(でも)
(いつもより振りかぶりが大きい)
晴真は迷わなかった。
刀也の振り下ろす腕を掴む。
身体をさばく。
その勢いのまま腕を引き落とす。
一瞬だった。
ドサッ。
気付けば刀也は仰向けに倒れていた。
晴真の手刀が喉元へ添えられている。
静寂。
正臣が静かに告げた。
「勝者」
「桜晴真」
⸻
「……え?」
刀也は天井を見つめたまま動けなかった。
(なんで……)
(俺は……)
(負けた?)
何が起きたのか分からない。
刀姫と刀優が慌てて駆け寄る。
「刀也!」
「大丈夫!?」
「平気だ……」
そう答えた瞬間。
パシン!
刀姫が刀也の頬を軽く叩いた。
「しっかりしなさい」
「まずは礼」
「……!」
刀也は我に返る。
立ち上がると晴真の前へ歩き、深く頭を下げた。
晴真も丁寧に礼を返した。
⸻
「二人とも」
刀斎が呼ぶ。
二人は刀斎の前へ並んだ。
刀斎は刀也を見る。
「刀也」
「何故負けたか分かるか?」
刀也は悔しそうに首を振る。
「……分からねぇ」
今度は晴真を見る。
「晴真」
「何故勝てた?」
晴真は少し考えて答えた。
「刀也くんの踏み込みは今までで一番速かったです」
「でも」
「腕の振りがいつもより大きくなっていました」
「だから」
「捕まえられると思いました」
刀斎は静かに頷く。
そして再び刀也を見る。
「お前」
「晴真がどんな動きをしたか覚えておるか?」
刀也は俯いた。
「……分からない」
刀斎は厳しい声で言った。
「お前」
「誰と戦っておった」
「……」
「自分の得意技を出すことばかり考え」
「相手を見ておらん」
「己の力を過信した」
「それがお前の敗因じゃ」
その言葉が胸へ突き刺さる。
刀也の目から一筋の涙がこぼれた。
「……くそ」
「俺……」
「全然見えてなかった」
⸻
刀也は晴真を見つめながら言った。
「晴真」
「さっきの技」
「すごかった」
「きっといっぱい修練したんだよな」
晴真は小さく頷く。
刀也は少し照れながら笑った。
「俺は毎日稽古してたけど」
「いつの間にか慣れでやってたところもあった」
「今日のお前を見て」
「俺も反省したよ」
晴真は顔を上げる。
「刀也」
「次は負けない」
そう言って右手を差し出した。
晴真も笑顔で握り返す。
「うん」
「またやろう」
握手を交わす二人。
だが晴真は心の中で思っていた。
(次は……)
(もう勝てないかもしれない)
(本気になった刀也は)
(きっとすごい剣士になる)
⸻
少し離れた場所では、刀姫と刀優が心配そうに弟を見守っていた。
しかし。
刀也は二人へ振り返り、笑顔を見せる。
「姉ちゃん!」
「優兄!」
「俺 稽古してくる!」
そう言って木刀を肩に担ぎ、鍛錬場へ走っていった。
その背中を見て、刀姫と刀優は顔を見合わせる。
「……よかった」
「立ち直ったね」
二人はほっと胸をなで下ろした。
そして正臣が次の名前を呼ぶ。
「次」
「木之子小夜」
小夜は静かに立ち上がり、試験場の中央へ歩き出した。




