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第六十八話 一人で咲かせる桜


 会場中の視線が道満へ集まる。


道秀は静かに微笑んだ。


「儂の孫に披露させる」


「お爺様……」


「まだ 成功したことは‥‥」


道満は少し驚いた表情を浮かべる。


道秀は優しく頷く。


「大丈夫だ」


「お前ならできる」


「やってみなさい」


その一言で、道満の表情から迷いが消えた。


「……はい」


道満は試験場の中央へ歩み出る。


静かに目を閉じる。


頭の中で思い浮かべるのは、チヨヒメが見せた術。


歌うような祝詞。


流れるような手印。


そして術式の流れ。


「――」


道満はゆっくりと祝詞を唱え始めた。


一言一句違えることなく。


手印も淀みなく結ばれていく。


会場が静まり返る。


やがて足元から桜色の光が広がる。


結界が展開される。


さらに封印術が重なり、桜吹雪が舞い始めた。


「おお……」


教師たちから感嘆の声が漏れる。


しかし。


「……!」


道満は眉をひそめた。


結界と封印術が互いに反発している。


結界がきしみ始める。


このままでは崩壊する。


「何故だ……」


道満は冷静に術式を見つめる。


(霊脈の数は同じ)


(霊力量も合わせている)


(なのに安定しない)


その瞬間。


何かが頭の中で繋がった。


「……そうか」


「違う」


「結界術の方がほんの少しだけ強くなければいけない」


一本。


結界へ繋ぐ霊脈を一本だけ増やす。


霊圧をわずかに調整する。


すると。


先ほどまで反発していた二つの術が、ゆっくりと噛み合い始めた。


桜吹雪が安定する。


道満は静かに頷いた。


「行きます」


「桜花封印術・第一の術――桜花散々」


桜色の結界が美しく輝く。


その中で桜吹雪が渦を巻き、幻想的な封印術が完成した。


静寂。


次の瞬間だった。


パチ……。


最初に拍手を送ったのは、

封印術担当の教師――麻賀多影行だった。


「……見事です」


影行は静かに微笑む。


「とても素晴らしい」


「同じ麻賀多一族として誇りに思います」


会場に拍手が広がる。


影行は少し照れくさそうに頭をかいた。


「私は思ったことをそのまま口にする性分です」


「だから誤解されることも多い」


「ですが」


「優れた生徒への賛辞だけは惜しみません」


その言葉に道満は深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


見学席で道秀は小さく呟く。


「……捻くれ者が」


そう言いながらも、その目にはうっすら涙が浮かんでいた。


孫の成長が何より嬉しかった。


すると突然――。


「道満!」


チヨヒメが勢いよく立ち上がる。


「妾の弟子になるのじゃ!」


すかさずクシナダが腕を組む。


「何を言う」


「あやつは剣術にも才がある」


「わしの弟子じゃ」


ミヅチも負けてはいない。


「いやいや!」


「札術も式神術も素晴らしい!」


「妾が育てる!」


三柱は本気で言い争いを始めた。


「妾じゃ!」


「いや わしじゃ!」


「譲らぬ!」


その様子を見た晴真は、にこにこと笑いながら道満へ話しかける。


「道満くん」


「大人気だね」


道満は苦笑いするしかなかった。


「嬉しいような……」


「困ったような……」


会場は笑いに包まれる。


その時。


学園長・若陽が静かに立ち上がった。


「皆」


その一言で会場が静まる。


「本当によく励みました」


「どの術にも努力の跡が見えました」


「素晴らしい試験でした」


若陽は穏やかに微笑む。


「では」


「次は――」


「武術の試験です」


その言葉に、生徒たちの表情が再び引き締まるのだった。

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