第六十七話 初等部1年生の奇跡
実技試験当日。
一年一組だけが実技試験場へ集められていた。
冬に行われるクラス対抗戦を考慮し、試験内容は他クラスへ漏らさないことが条件となっている。
そのため、会場にいるのは一年一組の生徒と教師陣だけだった。
学園長・御堂若陽。
勝田正臣。
西御門紫苑。
神門玄。
麻賀多影行。
そして特別立会人として御堂沙羅。
さらに神の眷属であるチヨヒメ、ミヅチ、クシナダ、珠代、銀花、一葉 二葉 三葉。
御堂晴隆、麻賀多道秀、立身刀斎も見学席へ並んでいた。
試験開始前。
沙羅が若陽へ小さく笑う。
「婆ちゃん。今日はきっとびっくりするぞ」
若陽は意味深に微笑む。
「ほう。それは楽しみじゃ」
一方、クシナダは正臣へ声を掛けた。
「正臣。今日は面白いものが見られるぞ」
「え? 何ですか」
正臣が尋ねると、チヨヒメが人差し指を口元へ当てた。
「内緒じゃ。試験を楽しみにしておれ」
⸻
試験は順調に進んだ。
札術。
結界術。
封印術。
一年生らしく未熟ではあるが、全員が努力の成果を見せていく。
教師たちも満足そうに頷いていた。
そして――。
「次。麻賀多道満」
正臣が名前を呼ぶ。
道満は一歩前へ出て静かに頭を下げた。
「先生。お願いがあります」
「何だ」
「四人で試験を受けてもよろしいでしょうか」
「……は?」
正臣は思わず聞き返した。
四人。
試験は個人試験のはずだ。
その時、沙羅が小さく笑う。
「なるほど。昨日言ってたのはそれか」
正臣は少し考え頷いた。
「責任は俺が持つ。許可する」
「ありがとうございます」
晴真、凛、小夜も前へ出る。
四人は向かい合って立った。
右側に晴真と道満。
左側に凛と小夜。
「始めます」
晴真が札を掲げる。
「火炎の術」
燃え上がる炎。
道満。
「旋風の術」
炎へ風が重なる。
一方。
凛。
「激流の術」
小夜。
「旋風の術」
渦巻く風が激流を包み込む。
小夜が森羅聴を発動する。
「晴真くん少し抑えて」
「道満くんそのまま」
「凛ちゃんあと少し」
「……今!」
四人が同時に霊力を重ねた。
「複合術!」
炎と風が融合し、
火炎旋風となる。
水と風が融合し、
水龍乱舞となる。
二つの巨大な複合術が中央で激突した。
轟音。
炎と水がぶつかり合い、
互いの力を打ち消しながら消滅する。
静寂。
成功した四人は顔を見合わせた。
「やった!」
「成功だ!」
しかし。
見学していた教師たちは誰一人として声を出せなかった。
「……」
「……」
何が起きたのか理解できない。
正臣も紫苑も目を見開いたまま固まっている。
「初等部で……複合術だと……二人でだと‥‥」
神門玄が呟く。
「いや。それよりも」
「相殺したということは」
「二つの複合術の霊力量も」
「霊質も」
「威力も」
「完全に一致していたということだ」
「そんなこと……可能なのか」
教師たちは顔を見合わせる。
ミヅチは豪快に笑った。
「かっかっか! さすが神門一門。見るところが違うのう」
「じゃが何でできるんじゃろうな」
正臣は慌てて沙羅へ詰め寄る。
「おい! 何を教えた!」
沙羅は両手を上げた。
「知らん知らん。私も昨日初めて見た」
正臣は晴隆を見る。
「晴隆さん! まさか!」
晴隆も首を振る。
「儂も教えとらん」
チヨヒメは嬉しそうに笑った。
「秘密じゃ」
その時。
凛が照れくさそうに手を挙げる。
「強いて言えば……晴真くんのおばあちゃんの
うどんがとても美味しいからです」
一瞬、静まり返る。
そして。
秘密を知る者たちは一斉に吹き出した。
「はっはっは!」
「かっかっか!」
「なるほど!」
笑い声が響く。
一方、事情を知らない教師たちは首を傾げる。
「……?」
「うどん?」
「どういう意味だ?」
道満が一歩前へ出る。
「先生。もう一つあります」
「次はチヨヒメ様の術を参考にして考えた技です」
チヨヒメが目を丸くする。
「妾の?」
凛と小夜が同時に結界術を放つ。
二つの三角形が重なり、
美しい六角形の複合結界が完成する。
その中へ。
晴真と道満が封印術を発動。
桜吹雪が舞う。
さらに二つの桜の竜巻が結界内を荒れ狂う。
教師たちは再び息を呑んだ。
チヨヒメは目を潤ませ微笑む。
「妾の術を……さらに改良したのか」
その笑顔は誇らしさで満ちていた。
「妾が名前をつけてやるぞ」
「桜花六方封印陣でどうじゃ」
「ありがとうございます」
四人はお礼を言う。
結界術担当の西御門紫苑はただ静かに見つめる。
「……美しい」
それ以上の言葉が出なかった。
しかし。
封印術担当の麻賀多影行が一歩前へ出る。
「術は見事です。複合術も素晴らしい」
「ですが今回は個人試験です」
「四人で完成させた術をどう評価すべきか……判断しかねます」
その言葉に空気が引き締まる。
見学席で道秀が小さく呟く。
「……麻賀多本家らしい」
そして静かに立ち上がった。
「だったら儂の孫に披露させよう」
その一言に会場中の視線が道満へ集まった。




