第六十六話 四人で一つの術
実技試験前日。
秘密特訓も終盤を迎え、晴真たちは修練場で一息ついていた。
「さて」
晴隆が四人を見回す。
「明日の試験 陰陽術では何を見せる?」
「自分の得意な術を磨くのも一つの手だ」
道秀も頷く。
「一年生ですから無理に難しいことへ挑戦する必要はありません」
四人は考え込む。
その時だった。
「あっ!」
晴真が急に立ち上がった。
「思いついた!」
全員の視線が集まる。
晴真は道満を見る。
「道満くん」
「僕の術式 覚えてもらえないかな?」
「え?」
「今からか?」
「うん!」
道満は少し考えたあと小さく笑う。
「面白そうだな」
「やってみよう」
⸻
晴真は、自分が考えた『術ごとに霊脈を繋ぐ術式』を一から説明した。
道満は何度も試す。
しかし普段の術式とはまるで違う。
「これは」
「難しいな」
珍しく苦戦する道満。
それでも。
さすがは陰陽術の天才だった。
何度目かの挑戦で細い霊脈が札へ伸びる。
一本。
二本。
三本。
「できた」
晴真は満面の笑みになる。
「やった!」
晴隆も思わず感心した。
「一日で習得するとは」
道秀は苦笑する。
「やはり才能の塊ですね」
⸻
その後。
晴真は道満へ小声で耳打ちした。
「ねぇ」
「こんなのはどう?」
道満は話を聞くうちに口元を緩める。
「なるほど」
「悪くない」
「やってみよう」
二人は向き合った。
「みんな見てて!」
晴真が札を構える。
「火炎の術!」
燃え盛る炎が生まれる。
続いて道満。
「旋風の術!」
渦巻く風が炎へ重なる。
晴真と道満は同時に霊力を合わせた。
「今!」
炎と風が一つとなる。
ゴォォォッ!!
巨大な火炎旋風が修練場の中央で渦を巻いた。
「「複合術・火炎旋風!」」
その場にいた全員が固まる。
「……」
「……」
晴隆と道秀は言葉を失った。
「二人で」
「複合術?」
沙羅は額に手を当てる。
「またやらかした」
ミヅチは腹を抱えて笑った。
「かっかっかっ!」
「面白い!」
神の眷属たちも思わず笑ってしまう。
銀花は目を丸くした。
「二人で複合術なんて」
「そんな前代未聞です!」
一葉も呆れたように言う。
「複合術とは本来」
二葉が続ける。
「一人の術者が霊力を精密に制御し」
三葉が締めくくる。
「複数の術を融合させる高度な術です」
「それを」
「二人で?」
三姉妹は揃って首を抱えた。
⸻
その様子を見ていた凛が目を輝かせる。
「私たちにも教えて!」
「私も!」
小夜も身を乗り出した。
晴真と道満は顔を見合わせる。
「もちろん!」
四人は早速練習を始めた。
最初は晴真の術式の理屈が理解できず、
霊力の流れがうまく噛み合わない。
だが銀花や珠代が横から助言を送り、
少しずつ形になっていく。
霊力操作に長けた凛。
森羅聴で仲間の霊力の流れを感じ取れる小夜。
二人とも少しずつコツを掴んでいく。
「今!」
「少し右!」
「霊圧を弱めて!」
小夜が細かく指示を出す。
やがて四人の霊力はぴたりと重なった。
⸻
その時。
晴真が再び声を上げた。
「あっ!」
「また思いついた!」
全員が嫌な予感を覚える。
晴真は笑顔で言った。
「凛ちゃんと小夜ちゃんが結界を張って」
「僕と道満くんが封印術を使う」
「それを四人で融合したら」
道満はすぐ理解した。
「なるほど」
「理論上は可能だ」
「やってみましょう」
晴真は四人へ手を差し出す。
「手を繋ごう」
「その方が霊力を合わせやすい」
四人は輪になって手を繋ぐ。
小夜が森羅聴で三人の霊力を感じ取る。
「晴真くん 少し弱めて」
「道満くん そのまま」
「凛ちゃん 今!」
四人の霊力が一つになる。
桜色の結界が五角形を描く。
その中へ封印術が重なる。
やがて。
無数の桜吹雪が舞い始めた。
「……!」
その光景に誰もが息を呑む。
チヨヒメが見せた術とほとんど同じ。
「「桜花封印術・第一の術――桜花散々」」
四人の声が重なった。
修練場は静まり返る。
そして――。
「かっかっかっかっ!」
ミヅチが大爆笑した。
沙羅も笑い転げる。
「もう何なの この子たち!」
クシナダは苦笑い。
珠代も額へ手を当てる。
「発想が自由すぎます」
銀花は肩を落とした。
「もう驚く気力もありません」
三姉妹も揃って苦笑する。
「神の眷属様の術を」
「一年生が再現してしまうなんて」
刀斎は頭を抱えた。
晴隆も道秀も深いため息をつく。
「最早」
「何も言えん」
「試験前日にとんでもないものを見てしまった」
一方。
術を見つめるチヨヒメは小さく震えていた。
「ま」
「まさか」
「妾の技を」
「初等部一年生が再現するとは」
目にはうっすら涙が浮かんでいる。
驚き。
戸惑い。
そして何より――。
嬉しかった。
自分が生み出した術が未来を担う子どもたちへ受け継がれ、新しい形で花開いていく。
珠代はそんなチヨヒメの肩へそっと手を添えた。
「チヨヒメ様」
「とても嬉しそうですね」
チヨヒメは涙をぬぐい小さく笑った。
「うむ」
「妾の術が」
「未来へ咲いたようじゃ」
その言葉に修練場の桜が風に揺れ、祝福するように花びらが静かに舞い続けていた




