第六十五話 立身流の巡らせ
「さて」
刀斎は四人を修練場の中央へ集めた。
「今日は武術の基本中の基本を教える」
「立身流――巡らせじゃ」
晴真たちは姿勢を正す。
刀斎は自ら手本を見せるように目を閉じた。
「霊力を丹田へ集める」
「そしてその霊力を身体中の霊脈へ巡らせる」
「筋肉」
「骨」
「関節」
「全身へ霊力を行き渡らせ身体そのものを強化する」
「術ではない」
「武術のための基礎じゃ」
刀斎の身体から穏やかな霊力が全身へ巡っていく。
その姿は、まるで一本の大樹に命が流れるようだった。
⸻
その様子を見ていた道秀が苦笑する。
「刀斎兄」
「よろしいのですか?」
「何がじゃ?」
「立身流の技ですよ」
「門下生でもない者へ教えてしまって」
晴隆も頷く。
「普通なら門外不出でしょう」
刀斎は豪快に笑った。
「がっはっは!」
「何を今さら」
「クシナダ様が直々に指南してくださったんじゃ」
「ならば」
「わしが指南するのは当然じゃろう」
クシナダは静かに頷く。
「うむ」
「構わぬ」
晴隆は頭を抱える。
「刀斎兄は……」
「相変わらず無茶苦茶だ」
道秀も笑う。
「本当に」
刀斎は二人を見て豪快に笑った。
「お前ら二人にだけは言われとうないわ!」
晴隆が吹き出す。
「何十年前の話ですか」
道秀も笑い出した。
「もう学生じゃありませんよ」
「はっはっは!」
三人は昔を思い出したように笑い合う。
沙羅が晴真たちへ小声で言う。
「昔この三人は学園中を走り回って問題ばっかり起こしてたんだ」
「えぇ……」
晴真たちは顔を見合わせた。
⸻
「さあやってみろ」
刀斎の合図で四人は目を閉じる。
まずは晴真。
丹田へ霊力を集める。
そのまま自然に全身へ巡らせる。
霊力は淀みなく流れ、身体全体へ広がっていった。
「ほう」
刀斎が感心する。
続いて道満。
こちらも無駄なく霊力が全身へ巡る。
「こっちも早いな」
晴隆が微笑む。
「二人とも普段の瞑想の成果でしょう」
道秀も頷いた。
「丹田を意識する習慣がありますからね」
一方。
凛と小夜は苦戦していた。
「うぅ……」
「途中で止まっちゃう……」
霊力は丹田までは集まる。
しかし全身へ巡らせることができない。
刀斎は慌てさせることなく言う。
「焦るな」
「流そうとするな」
「身体へ染み込ませるような感覚じゃ」
「はい!」
二人は何度も挑戦する。
そして――。
「できた!」
凛の霊力が全身へ流れる。
少し遅れて小夜も成功した。
「私も……!」
刀斎は満面の笑みになる。
「よぉし!」
「二人とも上出来じゃ!」
「初めてでここまでできれば十分!」
「さすがじゃ!」
「筋がええ!」
あまりの褒めように凛も小夜も照れてしまう。
「ありがとうございます」
「頑張ります」
刀斎は腕を組み、満足そうに何度も頷く。
「いやぁ」
「本当にええ娘さんたちじゃ」
「こんな孫娘……いや」
少し考えてから笑う。
「うちの孫の嫁に来てほしいくらいじゃ!」
その場が静まり返る。
凛と小夜は顔を見合わせる。
そして二人同時に、ぺこりと頭を下げた。
「お気持ちは嬉しいですが……」
「丁重にお断りします」
「がっはっは!」
刀斎は豪快に笑う。
「そう簡単にはいかんか!」
そのやり取りに修練場は笑いに包まれる。
晴真も道満も思わず吹き出し、神の眷属たちも楽しそうに微笑んでいた。
試験前の緊張は、いつの間にか温かな笑いへと変わっていた。




