第六十二話 新たな霊脈
「さて。」
ミヅチが扇子を閉じ、晴真へ向き直る。
「今度は、晴真の札術を見てやろう。」
「はい!」
晴真は一枚の札を取り出した。
深く息を吸い、意識を集中する。
丹田へ霊力を集める。
そして札へ霊力を送り込む。
「札術――火球!」
ボッ――。
手のひらほどの火球が生まれ、真っ直ぐ飛んでいく。
威力も大きさも申し分ない。
以前のような暴発はまったくない。
ミヅチは満足そうに頷いた。
「うむ。」
「一年生としては申し分ない。」
「実によい術じゃ。」
晴真はほっと息をつく。
しかし。
ミヅチだけは眉をひそめていた。
「……じゃが。」
「何じゃろうな。」
「違和感がある。」
晴真は首を傾げた。
「違和感……ですか?」
「うむ。」
「術は安定しておる。」
「いや……。」
「安定しすぎておると言うべきか。」
「何かがおかしい。」
その言葉に、チヨヒメ、珠代、クシナダも晴真へ視線を向ける。
沙羅も腕を組む。
銀花も不思議そうな表情を浮かべた。
三姉妹も顔を見合わせる。
ミヅチは静かに言った。
「霊視をしてみよう。」
「晴真。」
「もう一度、術を放ってみよ。」
「はい。」
晴真は再び札を構える。
全員の視線が集まる。
ミヅチたちは霊視を発動した。
その瞬間だった。
「……!」
全員の表情が一変する。
普通なら。
丹田へ集まった霊力は、身体に張り巡らされた霊脈を通り、札へ流れる。
しかし。
晴真は違った。
丹田から一本。
細い糸のような霊力が札へ伸びる。
さらに二本。
三本。
四本。
細い霊力の糸が、それぞれ札へと繋がっていく。
その糸を通って霊力が流れ込み、術が発動していた。
チヨヒメが目を丸くする。
「これは……。」
珠代も驚きを隠せない。
「身体の霊脈ではありません。」
クシナダも腕を組む。
「術のたびに、新しい道を作っておる。」
沙羅が目を見開いた。
「えっ……。」
銀花も驚いた表情で晴真を見つめる。
「晴真様……。」
ミヅチは興味深そうに笑った。
「なるほどのう。」
「身体にある霊脈を使うのではなく。」
「術を放つためだけに、新たな霊脈を札へ繋げておるのか。」
晴真は少し照れながら頭をかいた。
「えっと……。」
「おじいちゃんに教わって、みんなと同じように身体の霊脈を使って術も出せます。」
「でも。」
「霊圧を調整して、流す量を決めるのが僕には少し難しくて……。」
「それで?」
珠代が優しく促す。
晴真は少し恥ずかしそうに笑った。
「お婆ちゃんが、うどんを打っているのを見て思いついたんです。」
「粉に一気に水を入れるんじゃなくて。」
「少しずつ加えて混ぜていました。」
「だから。」
「霊脈も太い一本じゃなくて。」
「細く必要な分だけ繋げれば。」
「霊力が流れすぎないかなって思って……。」
「だから、このやり方にしました。」
少し不安そうに皆を見る。
「……やっぱり。」
「駄目ですか?」
一瞬、静寂が流れる。
そして。
ミヅチは大きく笑った。
「かっかっかっ!」
修練場に笑い声が響く。
「晴真。」
「誰が駄目だと言った。」
「むしろ――」
ミヅチは目を細め、心から嬉しそうに笑った。
「素晴らしい。」
その一言に、その場にいた全員が頷く。
チヨヒメは感心したように微笑み、珠代も優しく目を細めた。
「既存の霊脈に頼るのではなく、自ら術のための霊脈を組み上げる……。」
「こんな発想、私も初めて見ました。」
クシナダは腕を組んだまま笑う。
「型に縛られぬ者だからこその発想じゃな。」
沙羅は晴真の頭をくしゃっと撫でた。
「お前って、本当に面白いな。」
銀花は誇らしげに微笑む。
「さすが晴真様です。」
晴真は照れくさそうに笑いながら頭をかいた。
「えへへ……。」
その何気ない工夫は、誰も思いつかなかった新しい術理への第一歩だった。




