第五十九話 道満の武
凛が神楽双刃術を教わり始めた頃。
クシナダは静かに道満へ視線を向けた。
「さて。」
「麻賀多の坊主。」
突然名前を呼ばれ、道満は姿勢を正す。
「はい。」
クシナダは真っ直ぐ道満を見据えた。
「お主。」
「本気で武術をやろうとは思っておらぬじゃろう。」
その言葉に、その場の空気が止まる。
道満は一瞬だけ表情を崩した。
図星だった。
だが、すぐにいつもの冷静な表情へ戻る。
「……なぜ、そのように思われるのですか?」
クシナダは静かに答えた。
「そなたは常に効率を考えておる。」
「敵をどう倒すか。」
「どうすれば最短で勝てるか。」
「そればかり考えておる。」
道満は黙って聞いていた。
「そして結論は一つ。」
「得意の陰陽術を使った方が手っ取り早い。」
「違うか?」
道満は少しだけ苦笑した。
「……その通りです。」
「剣術も体術も嫌いではありません。」
「ですが。」
「陰陽術の方が、効率良く敵を倒せます。」
「ならば、限られた時間を陰陽術へ費やした方が合理的だと考えていました。」
晴真たちは静かに聞いている。
クシナダは頷いた。
「やはりな。」
「剣術は護身程度。」
「そう思っておる。」
「はい。」
道満は素直に認めた。
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クシナダは木刀を手に取る。
「確かに。」
「剣術も体術も。」
「才能があり。」
「努力を怠らず。」
「日々積み重ねた者が強くなる。」
「陰陽術も同じじゃ。」
「日々の研鑽は欠かせぬ。」
「じゃが。」
クシナダの瞳が鋭くなる。
「陰陽術には急激な変化がある。」
「ある日突然、大きく成長することもある。」
道満は静かに頷く。
「はい。」
「だから。」
「武術を鍛えるより。」
「陰陽術を鍛えた方が。」
「効率良く。」
「一撃で敵を倒せる。」
「そう考えておるのじゃろう。」
道満は深く息を吸う。
「……はい。」
「否定はできません。」
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クシナダは微笑んだ。
「その考え。」
「間違ってはおらぬ。」
「じゃが。」
「武の世界にも、一撃だけに全てを懸ける武がある。」
そう言うと、腰の刀へ手を添える。
ゆっくりと鞘へ納める。
静寂。
誰も動かない。
その瞬間。
――シュン。
誰の目にも止まらぬ速さで刀が抜かれた。
次の瞬間には、再び刀は鞘へ納まっている。
遅れて。
少し離れた場所に立てられていた竹束が、音もなく二つに割れた。
「……え?」
晴真は目を見開く。
凛も息を呑む。
道満ですら、その一瞬を見切れなかった。
「今……。」
「抜いたのですか?」
クシナダは静かに頷く。
「うむ。」
「武の世界にも。」
「一撃だけに命を懸ける技がある。」
「その名は――」
「居合。」
一葉が続ける。
「抜くまでが修練。」
二葉が微笑む。
「構えも。」
「間合いも。」
「心も。」
三葉は静かに締めくくる。
「全てを一太刀へ込める武です。」
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クシナダは道満へ視線を向けた。
「坊主。」
「効率を求めるなら。」
「この武は、お主に向いておる。」
「無駄なく。」
「最短で。」
「ただ一太刀に全てを懸ける。」
「陰陽術だけが、一撃必殺ではない。」
道満は竹束を見つめたまま、小さく息を吐いた。
「……なるほど。」
「武術にも。」
「私が求めていた答えがあったのですね。」
クシナダは静かに笑う。
「ようやく気付いたか。」
道満は深く頭を下げる。
「クシナダ様。」
「ぜひ、ご指導をお願いいたします。」
「うむ。」
「今日から、お主には居合を教えよう。」
その言葉に、晴真たちも嬉しそうに笑った。
それぞれが、自分だけの武を見つけ始めていた。




