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第五十七話 晴真にあう武術


「晴真」


クシナダは修練場の中央へ歩み出た。


「これからお前に一つ武術を見せよう」


そう言うと、一葉へ目配せする。


「一葉」


「はい」


一葉は木刀を置き、クシナダの前へ立った。


「本気で来い」


「承知しました」


一葉は深く一礼すると、一気に踏み込む。


鋭い突き。


しかし――。


クシナダは一歩も下がらない。


相手の腕へそっと触れる。


身体を半歩だけ開く。


次の瞬間。


ふわり。


一葉の身体が宙を舞い、気付けば地面へ柔らかく倒れていた。


「……え?」


晴真は目を丸くする。


何が起こったのか分からない。


一葉はすぐに立ち上がり、再び攻める。


今度は拳。


蹴り。


連続攻撃。


だがクシナダは受け止めるのではなく流す。


押さない。


引かない。


相手の力をそのまま利用し、体勢を崩す。


気付けば一葉は再び地面へ転がっていた。


「すごい……」


凛が思わず息を呑む。


小夜も目を輝かせる。


「力で勝ってない……」


道満も静かに頷いた。


「相手の力を利用している」


その時だった。


晴真がぽつりと呟く。


「……あれ?」


皆が晴真を見る。


「どうした?」


晴真は不思議そうな表情を浮かべる。


「この武術……」


「なんだか見たことがある気がする」


「表佐倉で」


クシナダが少し驚いたように目を細めた。


「ほう」


「表佐倉にもあるのか」


晴真はゆっくり頷く。


「たぶん……」


「合気道っていう武道だったと思います」


「相手の力を利用して相手を制する武道です」


クシナダは感心したように微笑んだ。


「合気道か」


「表佐倉ではそのように呼ばれておるのじゃな」


「こちらでは古くから合気術と呼んでおる」


「名前は違っても本質は同じじゃ」



クシナダは晴真へ歩み寄る。


「晴真」


「お前は相手をよく見る」


「動きを読み」


「呼吸を感じ」


「相手に合わせて動こうとする」


「それはこの武術に最も向いておる」


晴真は少し驚いた。


「僕が……ですか?」


一葉が優しく微笑む。


「はい」


「先ほどの模擬稽古でもそれがよく分かりました」


二葉も続ける。


「晴真様は自分から強引に攻めるより相手の動きを見て対応する方が自然でした」


三葉は静かに頷く。


「だから相手の力を受け流し、その力を返す合気術はとても相性が良いと思います」



銀花も穏やかに微笑んだ。


「私もそう思います」


「晴真様は人を傷付けることを望まないお方です」


「相手を打ち倒すためだけの武術は晴真様には合いません」


沙羅も腕を組んで笑う。


「確かにな」


「晴真は真っ向勝負より人を守る方が似合う」


ミヅチも頷く。


「うむ」


「相手をねじ伏せるより制する武術じゃな」


凛は嬉しそうに笑った。


「晴真くんらしいね」


小夜も優しく微笑む。


「うん」


「ぴったりだと思う」



クシナダは木刀を拾い、晴真へ差し出した。


「剣も学べ」


「じゃがそれは身を守るため」


「そして合気術で相手を制し」


「陰陽術で戦い」


「式神と共に歩む」


「それがお前だけの武術となる」


晴真は木刀を受け取り、大切そうに握りしめた。


「はい!」


「よろしくお願いします!」


クシナダは満足そうに頷く。


「よかろう」


「今日からお前にも合気術を教えよう」


晴真の新たな武の道は、剣だけでも陰陽術だけでもない。


相手を見つめ、その力を受け入れ、制する武術――合気術。


それこそが、晴真に最もふさわしい武の形だった。

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