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第五十四話 武術の師


 修練場。


桜花も加わり、式神の修練がひと段落して


道満が晴真を見ながら口を開いた。


「これで式神術は方向性が見えてきた」


「残る課題は武術だな」


晴真は苦笑する。


「うん……」


「武術だけはまだまだ自信がない」


凛も腕を組む。


「どうしたものかな」


小夜も少し考え込む。


「教えてくれる人がいればいいんだけど」


凛は首を横に振った。


「刀也くんと迅くんは駄目かな」


「え?」


晴真が不思議そうに尋ねる。


「二人とも強いよ?」


「強いけど」


凛は苦笑した。


「教えるのはたぶん苦手」


「感覚で戦ってるところがあるから」


道満も頷く。


「確かに」


「教える技術と戦う技術は別だ」


小夜が小さく手を挙げた。


「与一くんは?」


「弓も体術も上手」


凛は少し考える。


「でも与一くんは弓術が中心だから」


「晴真くんが学びたい武術とは少し違うかな」


皆が考え込んだその時だった。


「ほほう」


ミヅチが楽しそうに笑う。


「良い者を知っておるぞ」


全員が振り向く。


「本当ですか?」


晴真が身を乗り出す。


ミヅチは銀花へ視線を向けた。


「銀花」


「あやつらを呼んできてくれ」


銀花は少し驚いたように目を瞬かせる。


「分かりました」


「すぐにお呼びします」


そう言うと一礼して修練場を後にした。



しばらくして。


修練場の空気が変わる。


神聖で澄み切った霊気が辺りを包み始めた。


晴真たちは自然と背筋を伸ばす。


そして。


修練場の入口から一人の女性と三人の少女が静かに歩いて来た。


漆黒の長髪。


凛とした眼差し。


侍を思わせる気品ある佇まい。


クシナダ。


その後ろには三人の少女。


一葉カズハ


二葉フタバ


三葉ミツバ


クシナダの眷属であり三姉妹だった。


「こ この方たちは……」


晴真は思わず息を呑む。


凛も道満も小夜も自然と姿勢を正した。


神に仕える眷属。


いや。


神に等しい存在。


岩富家では古くから守護神として祀られている存在でもあった。


四人は深く頭を下げる。


「よろしくお願いいたします!」


クシナダは穏やかに頷いた。


「うむ」


「よい挨拶じゃ」


ミヅチが一歩前へ出る。


「クシナダ」


「晴真が武術で悩んでおる」


「少し見てやってくれぬか」


クシナダは晴真を見る。


「そうか」


「正臣の教え子か」


「ならば放ってはおけぬな」


晴真が首を傾げる。


「正臣先生とお知り合いなんですか?」


クシナダは静かに笑った。


「知り合いどころではない」


「正臣は私の弟子じゃ」


「えぇっ!?」


晴真たちは驚きの声を上げる。


ミヅチは肩を震わせながら笑った。


「武術も陰陽術も正臣はクシナダから学んだのじゃ」


「すごい……」


晴真は尊敬の眼差しでクシナダを見る。


しかし。


ミヅチは小さく吹き出した。


「……もっとも」


「クシナダは教えるのがとにかく下手じゃがな」


「え?」


晴真たちはきょとんとする。


クシナダは少し気まずそうに咳払いをした。


「こほん」


「そんなことは……少ししかない」


すると三姉妹が顔を見合わせて苦笑した。


一葉が頭を下げる。


「実際は私たち三姉妹が正臣様をご指導しました」


二葉も続ける。


「クシナダ様は強すぎるので……」


三葉が申し訳なさそうに笑った。


「教え方が豪快なんです」


クシナダは腕を組み真面目な顔で言う。


「まずは素振り千回」


「基礎が大事じゃ」


その瞬間。


「「「駄目です」」」


三姉妹の声がぴたりと重なった。


「え?」


クシナダが目を丸くする。


一葉は苦笑しながら言った。


「晴真様の癖も分からないのにいきなり素振り千回では意味がありません」


二葉も頷く。


「まずはどのように動くのかを見るべきです」


三葉は晴真と道満へ微笑んだ。


「お二人で模擬稽古をしてください」


「私たちが分析します」


晴真と道満は顔を見合わせる。


「僕と道満くんが?」


「もちろん」


一葉が頷く。


「戦い方を見れば長所も短所も分かります」


二葉が笑う。


「そこから修練を考えましょう」


三葉も優しく続けた。


「焦る必要はありません」


「晴真様に合った武術を一緒に見つけましょう」


クシナダも満足そうに腕を組む。


「うむ」


「それがよい」


ミヅチは小さく笑いながら呟いた。


「……やはり教えるのは三姉妹の方が上手じゃの」


その一言に修練場は和やかな笑いに包まれた。


そして晴真の新たな武術修練が、今まさに始まろうとしていた。

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