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第五十三話 桜花


 修練場には、まだ驚きの空気が残っていた。


晴真の肩にちょこんと座る、小さな人型の式神。


霊童。


人型の式神の中でも特に希少とされる精霊。


高い知性と自我を持ち、自ら考えて主を助ける存在。


その姿を見つめながら、銀花は優しく微笑んだ。


「晴真様」


「その子にお名前を付けてあげてください」


「名前?」


晴真は霊童の少女を見る。


少女も期待に満ちた瞳で晴真を見上げていた。


「私 お名前ほしい!」


「うーん……」


晴真は腕を組んで考え込む。


(かわいくて)


(優しくて)


(気が利いて)


(どこか銀花さんみたいだな……)


その瞬間、晴真の中で一つの名前が浮かんだ。


「そうだ」


「銀花さん」


「え?」


銀花が首を傾げる。


「銀花さんの『花』の字をもらってもいいですか?」


銀花は一瞬目を丸くした。


「私の……ですか?」


「うん」


「優しくてみんなを支えてくれるところが銀花さんに似てる気がして」


銀花は少しだけ頬を赤く染める。


照れくさそうに目を伏せた。


「……私なんかでよろしければ」


「もちろんです」


「ありがとうございます!」


晴真は嬉しそうに頷き、霊童へ向き直る。


「今日から君の名前は――」


桜花(おうか)


少女の瞳が大きく輝いた。


「桜花……」


「私 桜花!」


「ありがとう ご主人様!」


桜花は飛び上がるほど喜び、その場でくるくると回る。


その愛らしい姿に、皆の頬が自然と緩んだ。


銀花も照れながら小さく笑う。


「とても素敵なお名前ですね」


「ありがとうございます」


その笑顔は、どこか嬉しそうだった。


────────


桜花は銀花の前まで飛んでいく。


じっと銀花を見つめると、にっこり微笑み、深々と頭を下げた。


「銀花お姉様!」


「これからよろしくお願いします!」


「お お姉様?」


銀花は思わず目をぱちくりさせる。


桜花は満面の笑みで頷いた。


「だってお名前を分けてくださったんですもの!」


「私のお姉様です!」


銀花は困ったように笑いながらも、その言葉が嬉しかった。


「ふふ……」


「よろしくお願いします 桜花」


「はい!」


────────


その時だった。


晴真の胸元にしまっていた式神札が、ふわりと光り始める。


「あ」


晴真が気付く。


白い光が舞い、小さな白蛇が姿を現した。


「シャー」


「小桜!」


晴真が笑顔になる。


小桜は晴真の肩まで登ると、初めて見る桜花をじっと見つめた。


桜花も興味津々で近づく。


「こんにちは!」


「私は桜花!」


小桜は小さく鳴く。


「シャー」


まるで「よろしく」と答えたかのようだった。


桜花も嬉しそうに手を振る。


「仲良くしようね!」


小桜は晴真の頬へ一度だけ頭を擦り寄せると、桜花の頭へそっと鼻先を近づけた。


それは短いながらも、確かな挨拶だった。


そして次の瞬間。


ふわりと白い光に包まれ、小桜は自ら式神札の中へ戻っていく。


「あ 帰っちゃった」


晴真が少し寂しそうに笑う。


ミヅチは腕を組みながら頷いた。


「どうやら小桜も新しい仲間を認めたようじゃな」


道満も静かに微笑む。


「これで晴真の式神も二体になった」


小夜は桜花を見つめながら優しく言う。


「きっと賑やかになるね」


桜花は胸を張って元気よく答えた。


「はい!」


「ご主人様のお役に立てるよう頑張ります!」


晴真はそんな桜花を見て自然と笑顔になった。


新たな相棒との出会い。


それは、晴真の陰陽師としての歩みに、新しい彩りを添える大切な一日となった。

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