第五十二話 霊童
「今日からよろしくお願いします!」
手のひらほどの小さな少女は、ぺこりと頭を下げた。
晴真も思わず笑顔になる。
「うん!」
「こちらこそよろしく!」
少女は嬉しそうに微笑むと、ぴょんっと晴真の肩へ飛び乗った。
周りを興味津々に見回しながら、小さく手を振る。
「かわいい……」
凛が思わず頬を緩める。
小夜も優しく見つめていた。
「本当に人の姿なんだ……」
道満は腕を組みながら観察する。
「人型の式神か」
「初めて見た」
その時だった。
「おーい 晴真!」
聞き慣れた声が修練場に響いた。
振り向くと、修練場の入口から三人の女性が歩いてくる。
御堂沙羅。
銀花。
そして、銀色の髪を揺らすミヅチだった。
「沙羅さん!」
「銀花さん!」
「ミヅチさん!」
晴真は嬉しそうに手を振る。
「久しぶり!」
沙羅が笑いながら近づいてくる。
「修練 頑張ってるみたいだな」
銀花も穏やかに微笑む。
「皆さん お元気そうで安心しました」
ミヅチは腕を組みながら晴真を見つめる。
「少し見ない間に顔つきが変わったのう」
しかし。
三人の視線は、すぐに晴真の肩へ止まった。
「……ん?」
「……あれ?」
「えっ?」
三人の表情が一斉に固まる。
晴真の肩では、小さな少女がにこにこしながら手を振っていた。
「こんにちは!」
沙羅が目を見開く。
「おい 晴真」
「その子……誰だ?」
「僕の式神だよ」
晴真が何気なく答える。
その瞬間。
「「「はぁっ!?」」」
三人の声が見事に重なった。
道満たちは何事かと三人を見る。
銀花が信じられないという表情で少女を見つめる。
「まさか……」
「人型の式神……?」
ミヅチも珍しく驚きを隠せない。
「しかもこの気配……」
沙羅は額に手を当てた。
「また晴真か……」
「普通じゃねぇ……」
晴真だけが首を傾げている。
「そんなに珍しいの?」
銀花はゆっくり頷く。
「ええ」
「とても珍しいです」
そして少女の前へ静かにしゃがみ込む。
「あなた……霊童ですね」
少女はにこっと笑った。
「はい!」
その返事を聞いた瞬間。
沙羅とミヅチは顔を見合わせる。
「やっぱりか」
「うむ」
道満が尋ねる。
「霊童とは何なのですか?」
銀花は四人へ向き直った。
「霊童とは──」
「霊力を宿した子どもの姿を持つ精霊です」
「人型の式神の中でも特に希少な種族」
「非常に高い知性と強い自我を持ちます」
小夜が驚く。
「自分で考えて動く……」
「はい」
銀花は頷く。
「命令を待つだけの式神ではありません」
「主の気持ちを理解し 自ら考え 最善と思う行動で支えてくれる存在です」
凛は目を輝かせた。
「すごい……」
ミヅチは腕を組みながら苦笑する。
「普通の陰陽師なら一生出会えるかどうかじゃ」
沙羅もため息をついた。
「晴真は本当に規格外だな」
晴真は苦笑いする。
「僕は普通の式神を呼んだつもりなんだけど……」
その言葉に、その場にいた全員が思わず笑ってしまった。
霊童の少女も、つられて楽しそうに笑う。
修練場には穏やかな笑い声がいつまでも響いていた。
そして誰もが感じていた。
晴真が呼び寄せたこの小さな霊童は、これから先、ただの式神ではなく、彼にとってかけがえのない相棒になっていくのだと。




