第五十話 式神とは
翌朝
黒桜寮の修練場。
晴真、小夜、道満の三人は、昨日に続いて式神術の修練をしていた。
道満は晴真の式神札を見つめながら口を開く。
「桜」
「小桜は素晴らしい式神だ」
「でもそれだけでは駄目だ」
晴真は首を傾げる。
「え?」
「小桜は井野丸様から授かった式神だ」
「つまりお前自身が契約して召喚した式神ではない」
晴真は式神札を見つめた。
「そう言われると……そうだね」
小夜も静かに頷く。
「小桜は晴真くんを守るために井野丸様が託してくださった式神」
「だから自分の意思で出てくることはあっても晴真くんが自由に呼び出せるわけじゃないの」
道満は続ける。
「これから先 陰陽師として成長するなら自分自身の式神も必要だ」
「召喚し」
「命令を伝え」
「一緒に戦い」
「調査や護衛など様々な役割を任せられる式神だ」
晴真は納得したように頷いた。
「なるほど」
「そういう式神も必要なんだ」
────────
そこへ凛がやって来た。
「おはよう!」
「何のお話?」
小夜が簡単に事情を説明する。
凛は「なるほど」と頷いた。
「晴真くん」
「式神についてどこまで知ってる?」
晴真は少し考え込んだ。
「えっと……」
「正直あまり分からない」
「表佐倉では神様ってあまり人前に姿を現さないから」
「小桜みたいな存在を見るのも初めてなんだ」
一瞬、辺りが静かになる。
そして次の瞬間。
「ふふっ」
「くくっ」
「ははは」
小夜も道満も凛も思わず笑ってしまった。
晴真はきょとんとする。
「え?」
「何か変なこと言った?」
凛は笑いをこらえながら首を振る。
「違う違う」
「晴真くんらしいなって思って」
道満も苦笑する。
「桜」
「神様と式神は別物だ」
「えっ!?」
晴真は驚いて目を丸くした。
「違うの?」
凛は優しく説明を始める。
「神様は人々の信仰によって祀られる高位の存在」
「井野丸様や印旛大竜王様 稚日霊命様のような存在だね」
晴真は真剣な表情で頷く。
「うん」
「それに対して式神は陰陽師が契約を結び力を借りる霊的な存在なの」
「動物の霊だったり」
「妖怪だったり」
「精霊だったり」
「時には強い霊獣だったりする」
小夜も話を続ける。
「もちろん神様の眷属が式神になることもあるけどそれは特別な例」
「普通は神様そのものを式神にすることはできないよ」
「そうだったんだ……」
晴真は照れくさそうに頭をかいた。
「今まで全部同じようなものだと思ってた」
道満は小さく笑う。
「表佐倉育ちなら無理もない」
「こちらでは幼い頃から教わることだからな」
凛はにっこり笑った。
「じゃあこれから少しずつ覚えていけばいいよ」
「うん!」
晴真は元気よく返事をした。
「まずは自分で式神を召喚できるようにならないとね!」
その言葉に、小夜も道満も笑顔で頷く。
こうして晴真の新たな課題は、自ら契約し、自ら呼び出せる最初の式神を見つけることとなった。
実技試験まであと六日。
晴真の式神修練は、ここから本格的に始まろうとしていた。




