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第四十九話 小桜との距離


 翌朝


まだ朝日が昇り始めたばかりの修練場。


晴真は、小夜との約束どおり少し早くやって来ていた。


「おはよう」


小夜が静かに声を掛ける。


「おはよう 小夜ちゃん」


二人は向かい合う。


そこへ道満もやって来た。


「見学させてもらう」


「もちろん」


小夜は優しく頷いた。


「まずは晴真くんの式神を見せて」


「うん」


晴真は首から下げていた小さな袋を開き、一枚の札を取り出した。


白い桜の紋が描かれた式神札。


「この札に小桜が宿ってるんだ」


道満も興味深そうに覗き込む。


「井野丸様から授かった式神だったな」


「うん」


「でも……」


晴真は少し困ったように笑う。


「自分ではまだ呼び出せないんだ」


「え?」


道満が目を丸くする。


「呼び出せない?」


「小桜はね」


「出てきたい時だけ勝手に出てくるんだ」


「僕が出てきてってお願いしても全然出てきてくれない」


その時だった。


式神札がふわりと震えた。


「ん?」


白い光が札から溢れ、小さな白蛇がひょこっと顔を出した。


「おはよう 小桜」


晴真が嬉しそうに声を掛ける。


小桜は晴真の肩へするすると登ると、気持ち良さそうに首へ巻き付いた。


「今日は来てくれたんだ」


小桜は「シャー」と小さく鳴き、晴真の頬へ頭を擦り寄せる。


「かわいい……」


小夜が思わず微笑む。


道満も感心したように見つめる。


「随分と懐いているな」


「うん」


「でも本当に自由なんだ」


晴真が苦笑する。


「帰る時も自分の好きなタイミングで札へ戻っちゃう」


まるで晴真の言葉を証明するように、小桜はふいに光へ変わり、するりと式神札の中へ戻ってしまった。


「あ……」


「行っちゃった」


晴真は苦笑いを浮かべた。


小夜は少し考え込む。


「晴真くん」


「小桜は晴真くんを嫌っているわけじゃないよ」


「むしろその逆」


「逆?」


「うん」


「信頼しているから安心して自分の意思で出てきているの」


「でも」


「契約した式神としての繋がりはまだ完全じゃない」


道満も静かに頷く。


「つまり」


「小桜が晴真を選んでいる状態であって 晴真が小桜を呼べる状態ではないということか」


「その通り」


小夜は微笑んだ。


「だから最初の修練は術を覚えることじゃない」


「小桜ともっと心を通わせること」


「式神は命令で動く存在じゃない」


「心を重ねることで本当の力を貸してくれるの」


晴真は大きく頷いた。


「分かった」


「もっと小桜と仲良くなってみる」


その言葉を聞いた小夜は優しく笑った。


「きっと大丈夫」


「小桜は晴真くんのことが大好きだから」


朝日が修練場を照らす中、新たな修練が静かに始まった。


それは術を磨く修練ではなく、式神との絆を深めるための第一歩だった。

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