第四十八話 一週間後の実技試験
朝
黒桜寮の中庭。
晴真と道満は、いつものように向かい合って正座していた。
静かに目を閉じる。
呼吸を整える。
丹田を感じる。
霊圧を整え。
霊脈へ意識を向ける。
御堂家で学んだ瞑想は、今では二人の日課になっていた。
しばらくして、二人はゆっくり目を開ける。
「ずいぶん慣れてきたな」
道満が穏やかに言う。
晴真も笑顔で頷いた。
「うん」
「前より霊力が安定してるのが分かるよ」
「俺もだ」
道満は満足そうに微笑む。
「まだ完全ではないが、以前より術が組み立てやすくなった」
⸻
その日のホームルーム
正臣は教壇へ立つと、一枚の紙を掲げた。
「一週間後」
「実技試験を行う」
教室がざわめく。
「試験内容は五つ」
「札術」
「封印術」
「結界術」
「式神術」
「そして武術だ」
刀也が嬉しそうに拳を握る。
「待ってました!」
迅も不敵に笑う。
「腕が鳴るな」
晴真は少し緊張しながらも、以前ほど不安ではなかった。
(おじいちゃんとの修練のおかげで、札術も結界術も封印術も前より自信がある)
(でも……)
(式神術と武術は、まだまだだな)
⸻
昼休み
晴真と道満は中庭のベンチへ座っていた。
「札術、結界術、封印術は大丈夫そうだな」
道満が言う。
晴真は頷く。
「うん」
「でも、式神術だけは自信がない」
「武術も、みんなは小さい頃からやってるし」
道満は少し考え込む。
「式神術なら、一人心当たりがある」
「誰?」
「木之子小夜だ」
「小夜ちゃん?」
「式神術なら、一組で一番だ」
「森羅聴を持つ木之子家は、式神との繋がりも深い」
「教わるなら、あいつ以上の相手はいない」
晴真は少し安心したように笑った。
「お願いしてみようかな」
「それがいい」
⸻
放課後
晴真は少し緊張しながら小夜へ声を掛けた。
「小夜ちゃん」
「少しいい?」
小夜は本を閉じ、静かに振り向く。
「どうしたの?」
「実は……」
「式神術を教えてほしいんだ」
小夜は少し目を丸くした。
「私が?」
「うん」
「道満くんが、小夜ちゃんが一番詳しいって」
少し照れたように頬を赤く染める。
「私でよければ……」
「もちろん」
「ありがとう!」
晴真は満面の笑みを浮かべた。
その笑顔を見て、小夜の胸は少しだけ高鳴る。
⸻
木之子家に伝わる森羅聴。
それは草木や動物、式神たちの声を感じ取る力。
人の感情にも敏感だった。
だからこそ、小夜は晴真の心が少しだけ分かる。
(晴真くんの心……)
(いつも穏やか)
(暖かくて)
(一緒にいると安心する)
そんな心に、小夜は少しずつ惹かれていた。
本人はまだ、それが恋だとははっきり気付いていない。
それでも
晴真と話すたびに、自然と笑顔になってしまう。
「じゃあ。」
小夜は小さく微笑む。
「明日の朝、少し早く修練場へ来て」
「式神術の基礎から教えるね」
「本当?」
「ありがとう!」
晴真は嬉しそうに頭を下げた。
その様子を少し離れた場所から見ていた刀也が、迅へ肘で小突く。
「おい」
「晴真 わかってないだろうな‥」
迅は苦笑する。
「晴真は全然気付いてねぇな」
「まったくだ」
二人は顔を見合わせて笑う。
その隣で道満だけは静かに微笑んでいた。
(小夜なら安心して任せられる)
(式神術は、きっと大きく伸びる)
一週間後の実技試験へ向けて、それぞれの新たな修練が始まろうとしていた。




