第四十七話 修練の先
御堂家の修練場。
朝の澄んだ空気の中、晴隆は晴真と道満を向かい合わせに座らせた。
「さて」
「今日からは二人で修練してもらう」
晴真と道満は同時に返事をする。
「はい」
晴隆は二人を見比べながら話し始めた。
「晴真」
「お前は感覚で霊力を掴むのが得意じゃ」
「道満」
「お前は理屈で霊力を理解するのが得意じゃ」
「二人は正反対」
「だからこそ お互いに足りないものを補える」
道満は静かに頷く。
「確かに 晴真の話を聞くと 今まで思いつかなかった考え方ばかりです」
晴真は照れくさそうに笑う。
「僕は難しいことは分からないけどね」
「それでいい」
晴隆は微笑んだ。
「陰陽術に正解は一つではない」
「理論も大切」
「感覚も大切」
「どちらかだけでは その先へは進めん」
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晴隆は二人へ最上級札を一枚ずつ渡した。
「今日は術は使わん」
「札を持ったまま瞑想じゃ」
道満が不思議そうな顔をする。
「札を持つ意味があるのですか?」
「ある」
「札も霊力を感じておる」
「まずは札へ霊力を流そうとするな」
「札の存在を感じよ」
二人は静かに目を閉じた。
修練場は静寂に包まれる。
⸻
しばらくして。
道満が静かに目を開いた。
「晴隆様」
「札から何か温かいものを感じます」
「うむ」
「それが札に宿る霊力じゃ」
今度は晴真が目を開く。
「僕は……」
「札が呼吸しているように感じます」
道満が驚いて晴真を見る。
「呼吸?」
「うん」
「なんだか生きてるみたい」
道満は首を傾げる。
「そんな感覚は初めて聞いた」
晴隆は笑った。
「どちらも間違ってはおらん」
「道満は理で捉え」
「晴真は感で捉えた」
「見え方が違うだけじゃ」
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道満は晴真へ尋ねた。
「桜」
「君はどうやって丹田を感じられるようになった?」
晴真は少し考えた。
「うーん」
「おじいちゃんに教わった湧き水とか」
「川とか」
「うどんとか」
「……うどん?」
道満は思わず聞き返した。
晴真は笑いながら説明する。
「おばあちゃんが作ってくれた手打ちうどん」
「何度もこねて」
「休ませて」
「またこねる」
「その繰り返しを見てたら 霊力も同じじゃないかなって思ったんだ」
道満は腕を組み、真剣に考え込む。
「なるほど……」
「理論では説明できる」
「だが その発想はなかった」
晴隆は満足そうに頷いた。
「それでよい」
「陰陽術は先人から学ぶもの」
「だが それだけでは進歩はない」
「自然を見て」
「人の暮らしを見て」
「そこから新しい術理が生まれる」
⸻
道秀は縁側で酒を飲みながら、その様子を眺めていた。
「晴隆」
「面白い組み合わせだな」
晴隆も湯飲みを手に笑う。
「じゃろう」
「晴真は感覚で道を切り開く」
「道満はその道を理論にする」
道秀は嬉しそうに孫たちを見る。
「学生時代のお前とわしみたいだ」
晴隆は少し照れくさそうに笑った。
「そうかもしれんな」
二人は顔を見合わせ、小さく笑う。
修練場では、晴真と道満が並んで瞑想を続けていた。
まだ二人は気付いていない。
この出会いが、やがて裏佐倉の陰陽術そのものを変える、新たな術理の始まりになることを。




