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第四十五話 朝の修練


翌朝


まだ日の出前。


黒桜寮の中庭には、静かな朝の空気が流れていた。


晴真は毎朝の日課となった修練を始める。


静かに正座し、目を閉じる。


ゆっくり息を吸い。


ゆっくり吐く。


丹田を感じる。


霊圧を整える。


そして霊脈を意識しながら、霊力を身体中へ巡らせる。


御堂家で教わった修練を、一日も欠かさず続けていた。


「やはり ここにいたか」


聞き覚えのある声に、晴真はゆっくり目を開ける。


そこには道満が立っていた。


「おはよう 道満くん」


「おはよう」


道満は晴真の前へ座る。


「昨日話していた修練か?」


「うん」


「毎朝やるって おじいちゃんと約束したんだ」


道満は興味深そうに晴真を見つめた。


「少し見学してもいいか?」


晴真は首を振る。


「見るだけじゃもったいないよ」


「一緒にやってみる?」


「……え?」


道満は目を丸くした。


「いいのか?」


「もちろん」


「僕も全部分かってるわけじゃないけど 教えられることなら教えるよ」


道満は少し考えたあと、真剣な表情で頭を下げた。


「よろしく頼む」


「うん!」



二人は並んで正座する。


晴真が静かに話し始めた。


「まずは呼吸から」


「焦らないで」


「丹田を感じることだけ考えて」


道満は目を閉じる。


ゆっくりと呼吸を整える。


晴真は時折、小さく声を掛ける。


「肩の力を抜いて」


「霊力を動かそうとしなくていい」


「まずは感じるだけ」


しばらく静かな時間が流れる。


鳥のさえずりだけが響いていた。


やがて道満が目を開ける。


「……難しいな」


「最初は僕も全然分からなかったよ」


晴真は笑う。


「でも」


道満は自分の胸へ手を当てた。


「何となくだが」


「霊力が昨日より落ち着いている気がする」


「本当に少しだけだけど」


晴真は嬉しそうに頷く。


「それでいいんだよ」


「おじいちゃんも 焦らなくていいって言ってた」



晴真はふと思い出したように言った。


「そうだ」


「今週末 また御堂家へ行くんだ」


「道満くんも一緒に来ない?」


道満は驚いて晴真を見る。


「本当にいいのか?」


「もちろん!」


「おじいちゃんもきっと喜ぶよ」


道満の表情が明るくなる。


「ぜひ お邪魔したい」


「実は祖父から 晴隆様のお話は何度も聞いている」


「祖父とは親友同士なんだ」


「道隆兄さんの『隆』の字も 晴隆様からいただいたと聞いている」


晴真は目を丸くした。


「そうだったんだ」


「ああ」


道満は少し照れくさそうに笑う。


「祖父は晴隆様を とても尊敬している」


「その晴隆様から直接ご教授いただけると思うと……」


「嬉しくてたまらない」


その嬉しそうな顔を見て、晴真も笑顔になった。


「道満くんって 本当に陰陽術が大好きなんだね」


道満は少し照れながら頷く。


「ああ」


「好きだ」


「だから もっと知りたい」



その時だった。


「おーーい!」


朝の静けさを吹き飛ばすような声が響く。


「こんなところにいた!」


刀也と迅だった。


「朝っぱらから何してんだ?」


刀也が二人の前へしゃがみ込む。


迅は腕を組みながら尋ねた。


「昨日から気になってたんだけど」


「何で俺たち 寄り道したのがバレたんだ?」


道満は苦笑する。


「小夜の式神だ」


「え?」


「木之子小夜は森羅聴の力を持っているだろ」


「式神術も得意だ」


「晴真から急に妙な頼み事をされて心配になったらしい」


晴真は申し訳なさそうに頭をかく。


「そうだったんだ……」


道満は続ける。


「式神をこっそり尾行につけていたそうだ」


「お前たちが禁止区域へ入ったのを見て 凛へ知らせた」


刀也と迅は固まった。


「マジか……」


「完全に見られてたのか……」


「その話は江原美鈴が教えてくれた」


「噂好きだからな」


迅は頭を抱える。


「美鈴まで知ってるってことは……」


「ほぼ全校に広まってるじゃねぇか」


刀也も天を仰いだ。


「終わったぁ……」



その時、廊下の向こうから落ち着いた声が聞こえた。


「お前たち」


与一だった。


「そろそろ学校へ行く準備をしないと遅刻するぞ」


四人は顔を見合わせる。


「あっ!」


刀也が飛び上がった。


「やべぇ!」


「朝飯!」


「制服!」


「急げ!」


四人は一斉に寮へ駆け出した。


その後ろ姿を見ながら、与一は小さくため息をつく。


「朝から騒がしいな」


晴真と道満は顔を見合わせ、思わず笑ってしまうのだった。

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