第四十四話 なぜか見つかっていた
宮小路町を満喫した五人は、夕焼けに染まる城下町を歩いていた。
「いやぁ 楽しかったな!」
刀也が大きく伸びをする。
迅も満足そうに頷く。
「新しい忍具も見られたしな」
与一は買った弦を大事そうに抱えている。
道満は小さくため息をついた。
「……そろそろ急いで戻るぞ」
「見つかる前にな」
「大丈夫 大丈夫」
刀也は笑い飛ばす。
「誰にも見られてねぇよ」
「そうそう」
迅も軽く笑う。
晴真だけは少し不安そうだった。
「本当に……大丈夫かな」
⸻
黒桜寮の門が見えた。
「よし!」
「間に合った!」
刀也が門へ駆け寄ろうとした、その時だった。
「ほう」
聞き覚えのある低い声が響く。
五人の動きが止まる。
門の前には腕を組んだ勝田正臣。
その隣には、にこにこと笑う刀姫。
さらに寮母・摩季まで立っていた。
「「「……」」」
嫌な沈黙が流れる。
刀也が乾いた笑みを浮かべる。
「せ 先生」
「偶然ですね」
「偶然か?」
正臣は穏やかに笑っている。
しかしその笑顔が一番怖い。
迅が小声で呟く。
「終わった」
⸻
正臣は静かに言った。
「放課後」
「初等部一年生だけで無断外出」
「しかも五人揃って」
「何か言うことはあるか?」
五人は同時に頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!」
正臣は大きくため息をつく。
「学園の規則は お前たちを縛るためにあるんじゃない」
「守るためにあるんだ」
「もし妖が現れたら」
「もし事件に巻き込まれたら」
「お前たちだけで対処できると思うか」
誰も答えられない。
晴真が一歩前へ出る。
「先生」
「僕も誘われたのに断れませんでした」
「ごめんなさい」
正臣は晴真を見る。
「晴真だけの問題じゃない」
「五人全員の問題だ」
道満も静かに頭を下げた。
「俺も止められませんでした」
「止めるどころか 一緒について行った」
正臣は少しだけ笑う。
「自覚があるだけまだいい」
「反省しなさい」
「はい」
⸻
「正臣先生」
刀姫が一歩前へ出る。
「説教は終わりましたか?」
「ああ」
「では ここからは私の仕事ですね」
刀也と迅の顔色が変わる。
「え?」
「まさか……」
刀姫は満面の笑みを浮かべた。
「今日は特別稽古です」
「やったな」
「逃げるなよ」
「い いやあああ!」
その日の夕方。
修練場には木刀がぶつかる音と悲鳴が響き渡った。
「もっと腰を落とせ!」
「返事!」
「はいぃぃっ!」
刀也は汗だくになりながら素振りを続ける。
迅も息を切らしながら刀を振る。
「甘い!」
「もう百本!」
「まだ増えるのか!」
与一は黙々と付き合い
道満も無言で木刀を振っていた。
晴真も最後までやり遂げたが 足はすでに震えていた。
⸻
夜。
消灯時間を過ぎた男子一号室。
「もう動けねぇ……」
刀也は布団へ倒れ込む。
迅も天井を見つめたまま動かない。
「刀姫先輩……鬼だ」
与一が小さく笑う。
「自業自得だ」
道満も苦笑した。
「今回は反論できん」
晴真も疲れ切っていた。
「でも……」
「楽しかったね」
四人は顔を見合わせる。
「それは否定できない」
その時だった。
コンコン。
部屋の扉が静かに叩かれる。
「起きてる?」
寮母の摩季だった。
扉が開くと、お盆を持った摩季が優しく微笑んでいる。
「いっぱい叱られて いっぱい鍛えられたんでしょう?」
「お腹空いたと思って」
お盆には湯気の立つおにぎり。
味噌汁。
甘い卵焼き。
漬物が並んでいた。
「夜食だよ」
「食べたら ちゃんと寝ること」
刀也の目が輝く。
「摩季さん!」
「女神!」
迅も勢いよく起き上がる。
「生き返る!」
晴真は嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございます」
摩季は五人を見回しながら笑う。
「次はちゃんと許可を取って遊びに行くんだよ」
「はーい!」
五人の返事が寮中に響いた。
その夜のおにぎりは、いつもの何倍もおいしく感じられた。




