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第四話 黒い小包と御堂の家族

御堂沙羅とミヅチに出会い、佐倉陰陽学園の入学許可書を受け取ってから数日後。


桜家は慌ただしい毎日を送っていた。


「晴真ー! 制服用の下着買わなきゃ!」


「筆記用具もまだだぞ!」


「えっ!? 昨日買ったじゃん!」


「それは表佐倉用!」


「何が違うの!?」


晴真の叫びが家に響く。


入学準備に追われる母・美咲と父・晴臣は、朝から大忙しだった。


そんなある日の昼下がり。


ピンポーン。


玄関のチャイムが鳴った。


「はーい!」


美咲が玄関を開ける。


だが。


そこには誰もいなかった。


代わりに。


黒い箱が一つ。


そして――


「にゃあ」


一匹の黒猫がちょこんと座っていた。


「猫?」


「にゃー。」


黒猫は尻尾を揺らしながら箱を見つめている。


晴真も玄関へやって来た。


「宅配?」


「伝票もないわねぇ」


美咲が首を傾げる。


その時だった。


後ろから晴臣が近付いてきて、箱を見た瞬間。


表情が変わった。


「……これは」


「父さん?」


晴臣は箱の蓋に刻まれた紋様を指差した。


円環の中に金桜を囲む二匹の蛇。


「御堂の家紋だ」


「御堂?」


「俺の実家だよ」


晴真は思わず目を丸くした。


黒猫は満足そうに一声鳴くと、


「にゃ」


そのまま塀の上へ飛び乗り、どこかへ消えていった。


「あっ」


「式神だな」


晴臣が苦笑する。


「たぶん陽乃(はるの)陽香(はるか)あたりが使ったんだろ」


「え?」


「俺の姪たち」


晴真はますます気になった。


晴臣は箱を持ち上げる。


「中を見てみるか」


居間へ運び、慎重に蓋を開ける。


中には――


制服。


教科書。


筆記用具。


寮生活用品。


木刀に木刀袋。


陰陽札入れ。


さらには上質な革製の鞄まで入っていた。


「うわぁ……。」


晴真は目を輝かせた。


どれも見ただけで高級品と分かる。


晴臣が手に取って確認する。


「……すげぇな」


「そんなに?」


美咲が尋ねる。


「どれも最上級品だ」


「えっ」


「この鞄なんて俺が学生の頃でも見たことないぞ」


「そんなに高いの?」


「かなりな」


晴臣は呆れたように笑った。


そして小さく呟く。


「兄貴かぁ……」


「兄貴?」


「御堂家当主」


「つまり伯父さん?」


「そう」


晴臣は頭を掻いた。


「相変わらずだな」


その様子を見ていた晴真は、ふと思い出した。


「そういえば」


「ん?」


「俺、父さんの家族に会ったことないよね?」


部屋が静かになった。


晴臣と美咲が顔を見合わせる。


晴真は首を傾げた。


「会ったことないよね?」


少しの沈黙。


やがて晴臣が苦笑した。


「そうだったな」


「なんで?」


「俺が絶縁してたから」


「絶縁!?」


晴真は思わず立ち上がった。


「そんな重い話なの!?」


「いや、そこまででもない」


「いや絶対重いよ!」


美咲が吹き出した。


「ふふっ」


晴臣は困ったように笑う。


「昔な」


「うん」


「俺が母さんに一目惚れした」


「うん」


「御堂家が反対した」


「うん。」


「俺が無視して結婚した」


「うん」


「絶縁した」


「短っ!」


晴真が叫ぶ。


「説明短すぎるだろ!」


「大体そんな感じだ」


「そんな感じじゃないと思う!」


美咲が肩を震わせて笑っている。


「お父さん、本当にそのままだったから」


「え?」


「毎日毎日表佐倉に来るの」


「任務とか言ってな」


「絶対違ったよね?」


「違ったわね」


夫婦は顔を見合わせて笑う。


晴真は呆れながらも楽しそうだった。


「じゃあ今も仲悪いの?」


晴臣は首を横に振る。


「うーん まぁ あれだ 喧嘩はしてない」


「もしかして仲直りできてないの?」


「まぁ いろいろあるんだよ」


晴臣が苦笑いをしながら 照れ臭さに晴臣が言う


「前よりは、マシになってるんだよ。」


「沙羅が間を取り持ってくれてたから」


「沙羅さん?」


「あいつが爺さん達を説得した」


「へぇ」


「それに」


晴臣は晴真を見る。


優しい目だった。


「金桜眼の持ち主が生まれた」


「……。」


「御堂家も無視できなくなったんだろう」


晴真は少し複雑な気持ちになった。


すると美咲が頭を撫でる。


「大丈夫。」


「母さん?」


「みんな会えばきっと晴真を好きになるから」


「そうかな」


「絶対よ」


晴臣も笑った。


「むしろ心配なのは向こうだ」


「なんで?」


「爺さんも婆さんも孫に弱い」


「え?」


「たぶん会った瞬間に甘やかす」


「そんなに?」


「断言できる」


晴臣は即答した。


美咲も頷く。


「私もそう思う」


晴真は苦笑する。


その時。


制服の上に一枚の封筒が置かれていることに気付いた。


「ん?」


手に取る。


封筒には美しい文字で書かれていた。


『桜晴真殿』


中を開く。


そこには一通の手紙。



晴真へ。


入学を心よりお祝い申し上げる。


君が御堂の血を継ぎ、そして金桜眼を宿したことを誇りに思う。


裏佐倉で会える日を楽しみにしている。


御堂家当主 御堂晴時(みどうはるとき)



晴真は手紙を読み終えた。


そして少しだけ笑った。


まだ会ったことのない伯父。


会ったことのない祖父母。


会ったことのない従姉妹たち。


だが不思議と。


怖いとは思わなかった。


「父さん」


「ん?」


「入学したら会えるんだよね?」


晴臣は頷く。


「ああ」


「楽しみだな」


その言葉に。


晴臣と美咲は顔を見合わせて微笑んだ。


春の日差しが差し込む居間で。


桜晴真の新しい世界への扉は、少しずつ開き始めていた。






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