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第三話 金桜の血脈

食卓には、夕食の温かな香りが漂っていた。


だが、晴真の頭の中はそれどころではない。


鏡に映った、自分の瞳。


黄金に輝き、花開き始めた桜。


あの光景が忘れられなかった。


「お父さん」


晴真は静かに口を開く。


「金桜眼って……そんなに特別なの?」


晴臣は少し考えるように目を閉じる。


そして静かに頷いた。


「ああ」


「特別だ」


「だからこそ、学園長も沙羅も驚いていたんだ」


「どうして?」


晴臣は美咲を見る。


美咲も静かに頷いた。


「その話をするには、お母さんのご先祖様の話から始めないといけないわね」


「お母さんの?」


「ええ」


美咲は優しく微笑んだ。


「昔々――」


「まだ印旛の地が一つの国として栄えていた頃のお話。」


伊都許利命いとこりのみことという人物がいたの」


「その人は稚日霊命から力を授かり、この土地を治めたと伝えられているわ」


晴真は身を乗り出した。


「その人が金桜眼だったの?」


「ああ」


今度は晴臣が答える。


「金桜眼を宿した人物として、今も語り継がれている」


「その力で人々を導き、印旛の国を豊かな土地にしたと言われているんだ」


「すごい人だったんだ……」


晴真は思わず呟いた。


美咲は静かに頷く。


「そして、その血筋が今もどこかで受け継がれていると言われているの」


「その一つが、私たち桜家なのよ」


晴真は驚いた。


「じゃあ僕の金桜眼は……」


「偶然じゃない」


晴臣は静かに言った。


「受け継がれてきた命の証なのかもしれない」


部屋が少し静かになる。


やがて晴真は、ふと思い出したように母を見る。


「そうだ。」


「お母さんは陰陽眼を持ってないんだよね?」


「ええ」


美咲は笑顔で頷いた。


「でも、お母さんの家系には伊都許利命の血が流れている」


「だから金桜眼の力が、あなたに現れたのかもしれないの」


「なるほど……」


晴真は少し安心したように笑った。


すると晴臣が湯飲みを置く。

「さて」


「次は学園の話だ」


晴真の目が輝く。


「うん!」


「佐倉陰陽学園は、八年制の全寮制」


「小学五年生から高等部卒業まで八年間学ぶ」


「長い!」


「長いぞ」


晴臣は笑う。


「だから家族より長く一緒に過ごす仲間もできる」


「友達いっぱいできるかな」


「できるさ」


「お前ならな」


美咲も微笑んだ。


「そういえば」


晴真が思い出す。


「今日会った御堂沙羅さん」


「どんな人なの?」


その瞬間だった。


晴臣は遠い目をした。


「あいつか……」


美咲がくすりと笑う。


「あなたのいとこでしょう?」


「ああ」


晴臣は苦笑する。


「俺の六歳年下のいとこだ」


「お母さんは会ったことあるの?」


「結婚してから数回だけよ」


美咲は微笑んだ。


「仕事が忙しい人だから、ゆっくり話したことはあまりないの」


晴真は少し意外そうな顔をする。


「そうなんだ」


「でも、優しい人だったよ」


晴臣は笑う。


「あれでも昔より、ずいぶん丸くなった」


「え?」


「学生の頃は、とんでもない問題児だった」


「そんなに?」


「そんなにだ」


晴臣は即答する。


「喧嘩は強い」


「先生にも遠慮しない」


「思ったことは全部口にする」


「しかも誰の言うことも聞かない」


晴真は思わず笑ってしまう。


「想像できるかも」


「監督生になりたがる奴は大勢いたが、沙羅の面倒を見ると聞いた途端、みんな逃げた」


「えぇ……」


「そこで白羽の矢が立ったのが俺だ」


「なんで?」


「いとこだから」


「それだけ?」


「それだけだ」


晴臣は肩をすくめる。


「しかも俺も悪ガキ仲間だったから、『お前なら扱えるだろ』って押し付けられた」


美咲が吹き出す。


「押し付けられたのね」


「ああ」


晴臣も笑う。


「でも、あいつは仲間を裏切らない」


「筋もちゃんと通す」


「だから今でも信頼してる」


晴真は嬉しそうに頷いた。


「沙羅と同じ学年には、もう一人有名な奴がいた」


晴臣の表情が少し変わる。


勝田正臣(かつたまさおみ)


「今日、初めて聞く名前だ」


「学園でも飛び抜けた天才だった」


「そんなに?」 


「ああ」


晴臣は指を折りながら数える。 


「剣術」


「弓術」


「体術」


「陰陽術」


「結界術」


「勉強も一流」


「何をやらせてもできる奴だった。」


「すごい……」


「しかも努力家だ」


「だから先生たちからも、生徒たちからも一目置かれていた」


「今は学園で教師をしている」


晴真は、その名前を心の中で繰り返した。


勝田正臣


まだ会ったこともない先生


だが数日後、その人物が自分の担任となり、裏佐倉での新しい人生を導いてくれることを、この時の晴真はまだ知らなかった。


その頃――


佐倉陰陽学園


職員室では、一人の青年教師が新入生の名簿を静かに眺めていた。


勝田正臣


端正な顔立ちの青年は、一枚一枚ゆっくりと名簿をめくる。


「桜晴真……」


その名前を見つけると、ふっと口元が緩んだ。


隣の席では、西御門紫苑(にしみかどしおん)が湯飲みを片手に微笑む。


「気になる子でもいるの?」


正臣は小さく笑う。


「いや」


「なんとなく懐かしくてな」


「今年の新入生は……」


そう呟きながら名簿を閉じる。


そして窓の外に咲く桜を見つめ、穏やかに笑った。


「楽しそうだなぁ」


その言葉には、新しい出会いへの期待が込められていた。


数日後

その中の一人――桜晴真との出会いが、自分の運命を大きく変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。


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