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第三十九話 早朝


 翌朝


まだ太陽も山の向こうから顔を出したばかり。


御堂家の修練場には 朝露がきらきらと輝いていた。


晴真はいつものように修練場へ向かう。


そこには すでに晴隆が立っていた。


「おはよう おじいちゃん」


「うむ」


「今日で最後の修練じゃ」


晴真は姿勢を正した。


「お願いします」


晴隆は静かに頷く。


「今日は術を使う」


晴真は少し緊張した。


「火球ですか?」


「そうじゃ」


「だが 今までとは違う」


晴隆は晴真の胸へ軽く手を当てる。


「何を意識する?」


晴真は迷わず答えた。


「丹田」


「霊圧」


「霊脈」


「その三つです」


「よし」


晴隆は満足そうに微笑んだ。


「では始めよ」



晴真は静かに目を閉じた。


まず丹田を感じる。


下腹部にある温かな霊力の源。


そこへ意識を集中する。


次に霊圧。


力任せではない。


押し出しすぎない。


一定の強さを保つ。


そして霊脈。


丹田から腕へ。


腕から手へ。


一本の道を静かに流していく。


「焦るな」


晴隆の声が響く。


「霊力は逃げん」


「はい」


晴真はゆっくり呼吸を整えた。


吸って。


吐いて。


丹田。


霊圧。


霊脈。


三つを同時に意識する。


やがて 最上級札が淡い金色に輝き始めた。


以前のように激しくはない。


穏やかで 安定した光だった。


晴隆が静かに頷く。


「今じゃ」


晴真は札を前へ向ける。


「火球!」


次の瞬間。


ゴォッ!


現れた火球は 以前のような巨大な火柱ではなかった。


人の胴ほどの大きさ。


しかし炎は美しくまとまり 無駄な揺らぎがない。


火球は一直線に飛び 演習場の的へ命中した。


ドンッ。


的は大きく揺れたが 砕け散ることはない。


火球は役目を終えると静かに消えた。


修練場には静寂が戻る。


晴真は信じられないという顔で的を見つめた。


「できた……」


「ちゃんと……」


「火球になった」


晴隆はゆっくり笑う。


「うむ」


「見事じゃ」



晴真は嬉しそうに晴隆を見る。


「おじいちゃん!」


「成功しました!」


「いや」


晴隆は首を横に振る。


「まだ成功ではない」


晴真はきょとんとした。


「え?」


「確かに術は安定した」


「だがお前は まだ霊力を使い過ぎておる」


晴真は驚く。


「そうなんですか?」


「今の火球なら お前が流した霊力の半分以下で十分じゃ」


「残りは無駄になっておる」


晴真は少し肩を落とした。


「まだ駄目なんですね」


晴隆は優しく笑う。


「いや」


「ここまで来れば十分じゃ」


「残る課題は一つ」


「無駄な霊力をなくすこと」


「その答えは お前自身がもう掴みかけておる」


晴真は昨日見た うどん作りを思い出した。


少しずつ。


何度も。


無駄なく。


丁寧に。


その言葉が頭の中を巡る。


「何か……」


「あと少しで分かりそうなんです」


晴隆は嬉しそうに頷いた。


「それでよい」


「答えを人から教わっては お前の術にはならん」


「自分で掴め」


晴真は力強く頷いた。


「はい おじいちゃん!」


朝日が修練場を明るく照らし始める。


晴真は以前とは違う手応えを感じながら もう一度丹田へ手を当てた。


その胸には 新たな術理への小さな光が 確かに灯り始めていた。

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