第三十六話 霊圧で鍛える
翌朝
晴真はいつものように瞑想を終えた。
丹田を感じる。
霊脈を感じる。
そして霊力を身体中へ巡らせる。
昨日よりも滑らかに流れるようになっていた。
晴隆は満足そうに頷く。
「ずいぶん安定してきたな」
「はい」
「でも おじいちゃん」
「何度巡らせても 霊力量は変わらない気がします」
晴隆は笑った。
「その通りじゃ」
「ただ巡らせるだけでは 霊力は変わらん」
「え?」
「水を桶から桶へ移し替えても 水は増えも減りもせんじゃろ」
「はい」
「霊力も同じじゃ」
「巡らせるだけでは鍛えたことにはならん」
晴真は少し考え込んだ。
「じゃあ どうすれば……」
⸻
晴隆は修練場の隅に積まれていた炭を取り出した。
そして刀鍛冶が使う小さな金床と金槌を置く。
「御堂家は陰陽師じゃが 刀鍛冶とも縁が深い」
「刀はどうやって強くなると思う?」
晴真は答える。
「鉄を叩いて作ります」
「それだけではない」
晴隆は炭へ火を入れる。
「熱する」
「叩く」
「また熱する」
「また叩く」
「これを何度も繰り返す」
「そうすることで 不純物が抜け 強く粘りのある鋼になる」
晴真は真剣に見つめる。
「霊力も同じなんですか?」
「そうじゃ」
⸻
晴隆は晴真へ向き直る。
「霊力を巡らせる」
「そして丹田へ戻す」
「ここまでは昨日やった」
「今日からは違う」
「丹田へ戻る瞬間」
「霊圧を少しだけ掛ける」
晴真は首を傾げる。
「霊圧を……掛ける?」
「押し固めるのじゃ」
「霊力を丹田の中で少し圧縮する」
「水を押し固めるように」
晴真は驚いた。
「そんなことができるんですか?」
「最初は少しでよい」
「やってみなさい」
⸻
晴真は静かに目を閉じる。
丹田。
霊脈。
身体中へ巡る霊力。
そして。
丹田へ戻る瞬間だけ。
少しだけ押し込むように意識した。
「うっ……」
霊力が一瞬跳ね返る。
「難しいです」
「当然じゃ」
晴隆は笑う。
「力任せでは潰れる」
「優しく」
「だが逃がさぬように」
何度も繰り返す。
巡る。
戻る。
少し押す。
また巡る。
また戻る。
十数回繰り返した頃だった。
丹田へ戻った霊力が 昨日よりも少しだけ温かく感じた。
晴真は目を開く。
「何か……」
「温かいです」
晴隆は満足そうに頷く。
「それでよい」
「今 お前は霊力を少しだけ鍛えた」
⸻
晴真は驚いて丹田へ手を当てる。
「鍛えた……」
「巡らせるだけでは流れるだけ」
「霊圧を掛けて戻すことで 霊力は少しずつ鍛えられていく」
「一回では変わらん」
「百回」
「千回」
「一万回」
「積み重ねて初めて変わる」
晴真は静かに頷いた。
「毎日続けることが大事なんですね」
「その通り」
晴隆は空を見上げる。
「自然も 人も 一日では変わらん」
「だが 毎日積み重ねれば やがて誰にも真似できぬ力となる」
晴真は力強く返事をした。
「はい おじいちゃん」
その日から晴真は
霊力を巡らせ
丹田へ戻し
霊圧で少しずつ鍛える修練を繰り返すようになった。




