第三十五話 霊力を巡らせる
翌朝
晴真はいつものように修練場で瞑想を終えた。
丹田を感じる。
霊脈を感じる。
昨日まで見えなかった霊力の流れが 少しずつ分かるようになっていた。
晴隆は静かに頷く。
「ずいぶん感じ取れるようになったな」
「ありがとうございます」
「でも まだ術になると上手くいきません」
晴隆は微笑んだ。
「当然じゃ」
「今までは丹田と霊脈を知る修練」
「今日からは その霊力を動かす修練じゃ」
⸻
晴隆は地面へ一本の円を描いた。
「晴真」
「霊力はどこから生まれる」
「丹田です」
「どこを通る」
「霊脈です」
「その後は?」
晴真は少し考える。
「札……でしょうか」
晴隆は首を横へ振った。
「それが今の陰陽術の考え方じゃ」
「じゃが それでは霊力は一方通行になる」
晴真は首を傾げる。
「一方通行……」
晴隆は円を指差した。
「自然を思い出せ」
「湧き水は川になり 海へ流れる」
「海から雲になり 雨となって山へ降る」
「そして再び湧き水となる」
「自然は巡っておる」
晴真は目を見開いた。
「だから水はなくならない……」
「その通り」
⸻
晴隆は晴真の胸へ軽く手を当てる。
「霊力も本来は巡るものじゃ」
「丹田から霊脈へ」
「身体中を巡り」
「再び丹田へ戻る」
「戻る?」
晴真は驚いた。
「学校では教わりませんでした」
「今の術理では 術を使うために丹田から札へ流して終わりじゃ」
「じゃが 身体強化などでは 身体の中を巡らせた方が効率がよい場合もある」
晴真は真剣に耳を傾ける。
⸻
「まずは試してみよ」
晴隆は言う。
「霊力を札へ送るのではない」
「丹田から腕へ」
「腕から肩」
「肩から胸」
「胸から腹」
「そして丹田へ戻す」
「一周じゃ」
晴真は静かに目を閉じた。
丹田。
そこから温かな霊力が動き始める。
腕へ。
肩へ。
胸へ。
腹へ。
丹田へ。
しかし。
「うっ!」
途中で流れが乱れた。
霊力は腕から一気に外へ漏れてしまう。
晴真は肩で息をした。
「難しい……」
晴隆は落ち着いた声で言う。
「焦るな」
「川も最初から真っすぐ流れてはおらん」
「何度も形を変えながら海へ辿り着く」
「霊力も同じじゃ」
⸻
何度も繰り返す。
一周。
また一周。
最初は途中で止まっていた霊力が 少しずつ身体を巡るようになっていく。
やがて。
丹田へ戻った瞬間。
下腹部の温もりが少しだけ強くなった。
晴真は驚いて目を開く。
「戻ってきた……」
「おじいちゃん!」
「戻ってきました!」
晴隆は嬉しそうに笑った。
「それでよい」
「今 お前は初めて霊力を巡らせた」
「これが後の修練の土台となる」
晴真はもう一度丹田へ手を当てる。
流れた霊力が消えたのではなく 自分の中へ戻ってきた。
その感覚は 今まで術を使った時とはまったく違っていた。
晴隆は空を見上げる。
「巡る流れを自在に操れるようになれば お前の霊力はさらに安定する」
「その先に 本当の霊力の鍛え方がある」
晴真は力強く頷いた。
「はい!」




