第三十四話 瞑想
翌朝
まだ日が昇り始めたばかりの修練場。
朝露が芝を濡らし 鳥のさえずりだけが静かに響いていた。
晴真が修練場へ来ると 晴隆はすでに正座をして目を閉じていた。
「おはようございます おじいちゃん」
「うむ」
晴隆はゆっくり目を開く。
「今日は術も札も使わん」
「まずは座れ」
「はい」
晴真も晴隆の向かいへ正座した。
⸻
「晴真」
「昨日 丹田は霊力の源だと話したな」
「はい」
「だがお前は まだ丹田を感じてはおらん」
晴真は首を傾げる。
「昨日 少し温かいような感じはしました」
「それは身体の感覚じゃ」
「まだ丹田そのものではない」
晴隆は静かに目を閉じた。
「今日は瞑想を行う」
「瞑想ですか?」
「そうじゃ」
「陰陽術は 術を覚える前に自分自身を知ることから始まる」
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晴隆は静かに呼吸を始めた。
「息を吸う」
「四つ数える」
晴真もゆっくり息を吸う。
「一 二 三 四……」
「今度は吐く」
「六つ数える」
「一 二 三 四 五 六……」
静かな時間が流れる。
風が木々を揺らし 小鳥が枝へ止まる。
「何も考えなくてよい」
「ただ呼吸だけを感じる」
晴真は目を閉じた。
最初は雑念ばかり浮かぶ。
学校のこと。
凛たちのこと。
昨日の修練。
火柱。
失敗。
次々と思い浮かぶ。
「気にするな」
晴隆が静かに言った。
「雑念は消そうとするな」
「流してしまえばよい」
その言葉に 晴真は肩の力を抜いた。
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しばらくすると 不思議な感覚が生まれた。
身体全体が少しずつ軽くなる。
風の音。
鳥の声。
川のせせらぎ。
すべてが自然と耳へ入ってくる。
そして。
下腹部に ほんのり温かい感覚があった。
晴真は思わず目を開きそうになる。
「開けるな」
晴隆が静かに言う。
「そのまま感じ続けよ」
晴真は再び意識を丹田へ向ける。
温もりは消えない。
むしろ少しずつ はっきりしていく。
まるで小さな灯火が 静かに揺れているようだった。
⸻
どれくらい時間が過ぎただろうか。
晴隆がゆっくり声を掛けた。
「もうよい」
晴真は静かに目を開ける。
「おじいちゃん」
「丹田が温かかったです」
「何かが そこにあるような感じでした」
晴隆は満足そうに頷いた。
「それでよい」
「今日 お前は初めて自分の丹田を感じた」
「でも 霊力は見えませんでした」
「見えなくてよい」
晴隆は微笑む。
「丹田は見るものではない」
「感じるものじゃ」
「毎日感じ続ければ やがて霊力の動きまで分かるようになる」
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晴真は少し考え込んだ。
「おじいちゃん」
「昨日見た湧き水が丹田なら……」
「霊力は その水が流れ出す川なんですね」
晴隆は嬉しそうに笑った。
「そうじゃ」
「よく覚えておった」
「川を変えたければ 水源を知ること」
「術を変えたければ 丹田を知ること」
「その順番を忘れてはならん」
晴真は静かに頷いた。
「はい」
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晴隆は立ち上がる。
「今日から毎朝 この瞑想を行う」
「霊力を動かす修練ではない」
「丹田を感じる修練じゃ」
「土台ができねば どれほど立派な家も建たん」
晴真はもう一度 丹田へ手を当てる。
そこには確かに 静かな温もりがあった。
「少しずつでいい」
晴隆は優しく言った。
「焦らず 自分の丹田と向き合え」
「はい おじいちゃん」
晴真は力強く返事をした。
その日から 晴真の一日は術の修練ではなく 丹田と向き合う静かな瞑想から始まるようになった。




