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第三十三話 丹田を自然から学ぶ


 翌朝


教師たちは学園へ戻り 晴臣も公安部へ向かった。


御堂家に残ったのは 晴隆と晴真だけ。


朝露に濡れた庭を歩きながら 晴隆が口を開いた。


「今日は術は使わん」


晴真は不思議そうに尋ねる。


「修練じゃないんですか?」


「これも立派な修練じゃ」


「お前は 丹田という言葉は知っておる」


「だが 本当の意味はまだ分かっておらん」


二人は屋敷を出ると 里山へ向かった。


鳥のさえずりが響き 木漏れ日が山道を照らしている。


しばらく歩くと 一つの湧き水へたどり着いた。


岩の隙間から 透き通った水が絶え間なく湧き出している。


晴隆は湧き水を指差した。


「晴真」


「この水はどこから来ると思う?」


晴真はしゃがみ込み 水を眺める。


「山の中でしょうか」


「そうじゃ」


「雨が降り 大地へ染み込み 長い年月をかけて集まり この場所から湧き出しておる」


晴真は静かに耳を澄ませる。


水は決して勢いよく噴き出しているわけではない。


しかし 一度も途切れることなく流れ続けている。


晴隆は微笑んだ。


「丹田も同じじゃ」


「霊力は突然生まれるものではない」


「身体中を巡り 丹田へ集まり そして必要な時に流れ出す」


「この湧き水が丹田……」


晴真は小さく呟いた。


「そうじゃ」


「お前は今まで 丹田を霊力をためる袋だと思っておった」


「違うんですか?」


「違う」


晴隆は湧き水を手ですくう。


「丹田は ためるだけの器ではない」


「生み出し 整え 送り出す源じゃ」


「だから源が乱れれば 流れる川も乱れる」


晴真は昨日見た川を思い出した。


同じ水源でも 急流もあれば穏やかな流れもあった。


「昨日の川……」


「全部 この水から始まっていたんですね」


晴隆は嬉しそうに頷いた。


「ようやく繋がったか」


「川だけを見ても 本当の姿は分からん」


「源を見て初めて 流れの意味が分かる」


晴真は自分の下腹部へ手を当てた。


「僕も 自分の霊力ばかり見ていました」


「でも 本当に見るべきなのは丹田なんですね」


「その通り」


晴隆は優しく笑った。


「術とは結果じゃ」


「霊力の流れも結果じゃ」


「本当に理解せねばならんのは その源」


「つまり丹田じゃ」


晴真は目を閉じ 自分の身体へ意識を向ける。


胸ではなく。


腕でもなく。


静かに下腹部へ。


そこには 今まで意識したことのない不思議な温もりがあった。


「何となく 分かる気がします」


晴隆はすぐには答えない。


しばらく晴真の様子を見守り 静かに口を開いた。


「焦る必要はない」


「丹田は見るものではない」


「感じるものじゃ」


「自然を知れば 自分も分かる」


「自分を知れば 自然も分かる」


晴真はもう一度 湧き水へ目を向けた。


静かに湧き続ける水。


誰に見られることもなく 絶えることなく流れ続ける源。


その姿は 自分の中にある丹田と重なって見えた。


晴隆は穏やかに微笑む。


「明日からは その丹田を鍛える修練に入る」


「今日見た景色を忘れるな」


晴真は力強く頷いた。


「はい おじいちゃん」


その返事を聞き 晴隆は満足そうに空を見上げた。


青く澄んだ空の下 山の湧き水は今日も静かに流れ続けていた。

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