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第三十二話 丹田


 修練を終えた頃には 夕日が山の向こうへ傾き始めていた。


正臣は腕を組みながら 大きく息を吐く。


「今日は本当に勉強になりました」


紫苑も苦笑する。


「私たちも初めて知ることばかりだったわ」


玄も頷いた。


「晴真の霊力量が多いだけじゃなかったんだな」


晴隆は静かに笑う。


「まだ半分も話しておらん」


その言葉に 三人は思わず顔を見合わせた。


「明日は学校がありますので 私たちは失礼します」


正臣たちは深く頭を下げる。


晴隆も軽く頷いた。


「ご苦労だった」


────────


正臣は晴真の前まで歩いてきた。


「晴真」


「はい」


「明日から二 三日 学校は休みなさい」


晴真は驚く。


「えっ?」


「授業はどうするんですか?」


「心配するな」


「こちらで話は通しておく」


「今のお前に必要なのは 学校の授業じゃない」


「晴隆さんから直接学ぶことだ」


「その方が何倍も実になる」


晴真は少し迷ったが 素直に頷いた。


「分かりました」


正臣は安心したように笑う。


「戻ってきたら また一緒に頑張ろう」


「はい!」


────────


晴臣も立ち上がる。


「俺も公安部へ戻る」


「仕事が溜まってるからな」


晴真は少し寂しそうな顔をした。


「父さん……」


晴臣は晴真の頭を軽く撫でる。


「心配するな」


「親父以上に お前を教えられる人はいない」


「しっかり学んでこい」


「うん!」


晴臣は晴隆へ頭を下げる。


「親父」


「晴真を頼む」


晴隆は短く答えた。


「任せておけ」


晴臣は少し照れくさそうに笑い そのまま御堂家を後にした。


────────


修練場には 晴隆と晴真だけが残った。


夕暮れの風が静かに吹き抜ける。


晴隆はゆっくりと口を開いた。


「さて」


「ここからが本当の修練じゃ」


晴真は姿勢を正す。


「はい」


「昨日は霊力量と霊圧の違いを教えた」


「今日は その二つを生み出す丹田について話そう」


晴真は真剣な表情になる。


晴隆は自分の下腹部へ手を当てた。


「丹田とは霊力の源」


「ただ霊力を蓄える器ではない」


「霊力を生み出し 押し出す心臓のようなものじゃ」


晴真は自分の丹田へ手を当てる。


「心臓……」


「そうじゃ」


「霊力量は この丹田にどれだけ霊力を蓄えられるか」


「霊圧は その霊力をどれだけ強く押し出せるか」


晴真は考え込む。


「じゃあ……」


「丹田が大きいと霊力量が増える」


「その通り」


「では 丹田が強ければ?」


晴真は少し考えて答えた。


「霊圧も強くなる?」


「正解じゃ」


晴隆は満足そうに頷く。


「丹田は 水をためる池でもあり 水を送り出す水門でもある」


「池が大きければ 多くの水を蓄えられる」


「水門が頑丈なら 強い水圧にも耐えられる」


「つまり霊力量と霊圧は別の力でありながら どちらも丹田から生まれる」


晴真の目が少しずつ輝いていく。


「だから僕は……」


「丹田そのものが規格外なんですね」


「そうじゃ」


晴隆は静かに頷いた。


「だからこそ お前は丹田を自在に扱えるようにならねばならん」


「霊力量だけを鍛えても意味はない」


「霊圧だけを抑えても根本は変わらん」


「まずは丹田を知り 丹田を制すること」


「それがお前の修練の第一歩じゃ」


晴真は深く息を吸い 丹田へそっと手を当てた。


そこに 自分でもまだ知らない力が眠っている。


その力を恐れるのではなく 理解し使いこなせるようになる。


晴真は強く決意した。


「お願いします おじいちゃん」


「僕に丹田の使い方を教えてください」


晴隆は優しく微笑んだ。


「うむ」


「明日から 本当の修練を始めよう」

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