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第三十一話 霊圧


 翌朝


晴隆は再び晴真を修練場へ呼んだ。


正臣 晴臣 紫苑 玄も見学に来ている。


晴隆は晴真へ問いかけた。


「昨日 お前は何が分かった?」


晴真は少し考えて答えた。


「僕は霊力を操作できていないんじゃなくて……」


「霊力量が多すぎて 札へ流れ込みすぎてしまうことです」


晴隆は満足そうに頷いた。


「半分正解じゃ」


「半分?」


「原因は霊力量だけではない」


晴隆は晴真の下腹部へ軽く手を当てる。


「ここは何という?」


「丹田です」


「そうじゃ」


「丹田とは霊力の源」


「霊力が生まれ 蓄えられる場所じゃ」


晴隆は地面へ杖で円を描いた。


「この円が丹田だとしよう」


さらに円から一本の線を引く。


「この線が霊脈」


そして 線の先に札を描く。


「陰陽術とは 丹田から霊脈を通り 札へ霊力を流すことで発動する」


正臣たちも静かに聞き入っていた。


「では質問じゃ」


「水を遠くまで飛ばすには何が必要だ?」


玄が答える。


「水の量ですか?」


晴隆は首を振る。


紫苑が続ける。


「勢い?」


「その通り」


晴隆は頷いた。


「量だけでは水は飛ばん」


「押し出す力が必要じゃ」


晴真が小さく呟く。


「霊圧……」


「そうじゃ」


晴隆は微笑んだ。


「霊圧とは 霊力を押し出す力」


「霊力量が水なら 霊圧は水圧じゃ」


「水槽に水がたくさんあっても 水圧が弱ければ遠くへ飛ばない」


「逆に 水が少なくても水圧が高ければ勢いよく飛ぶ」


晴真は少しずつ理解し始める。


「じゃあ僕は……」


「霊力量だけじゃない」


「霊圧も強い」


晴隆は大きく頷いた。


「その通りじゃ」


「お前の丹田は規格外」


「そこから生まれる霊力量も莫大」


「さらに霊圧まで極めて高い」


「だから細く流したつもりでも 強い圧力で大量の霊力が押し出されてしまう」


晴臣が腕を組む。


「つまり 水道の蛇口を少し開けても 高圧ポンプが付いてるようなもんか」


「そういうことじゃ」


晴隆は笑った。


正臣も納得したように頷く。


「だから初級札では耐えられなかったんですね」


「うむ」


「札の問題でもあり 晴真の問題でもある」



晴隆は続けた。


「そして もう一つ」


「晴真」


「今 お前の身体から霊力が漏れていることは覚えておるな」


「はい」


「常に霊力を垂れ流している状態だと聞きました」


「その原因も この霊圧じゃ」


晴真は驚く。


「霊圧が?」


「霊圧が強すぎるため 丹田へ収まり切らず 常に外へ押し出してしまう」


「まるで満杯の桶から水があふれ続けるようにな」


「だから無意識でも霊力が漏れてしまう」


晴真は自分の手を見つめた。


「そんなことになっていたんだ……」



晴隆は一本の竹筒を取り出した。


中へ水を入れ 指で口を押さえる。


「見ておれ」


指を少しだけ緩める。


水は細く勢いよく飛び出した。


さらに大きく開ける。


今度は大量の水が一気に流れ出る。


「同じ水でも 出口と圧力で流れ方は変わる」


「霊力も同じじゃ」


「大切なのは 出す量だけではない」


「押し出す力を自在に扱うこと」


晴真は目を輝かせた。


「霊圧も鍛えられるんですか?」


晴隆は静かに笑う。


「鍛えられる」


「いや」


「正しく言えば 制御できるようになる」


晴真は力強く頷いた。


「僕 覚えたいです」


「霊圧を自在に扱えるようになりたい」


晴隆は満足そうに笑った。


「そのために修練する」


「明日から お前には霊圧そのものを鍛えてもらう」


「霊力量ではない」


「霊圧を自在に操れるようになれば お前の陰陽術は大きく変わる」


晴真は修練場の中央へ目を向けた。


自分の中にある規格外の力。


それを恐れるのではなく 使いこなせるようになりたい。


その思いは 昨日までよりもずっと強くなっていた。

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