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第三十話 晴隆との修練


 翌朝


朝食を終えた晴真は 晴隆に呼ばれた。


「今日は修練じゃ」


「修練ですか?」


晴真が首を傾げる。


「うむ」


「お前の霊力は 術を教える前に学ばねばならぬことがある」


晴真は力強く頷いた。


「はい!」


晴臣や正臣たちも同行しようとしたが 晴隆は静かに首を振る。


「皆は後から来なさい」


「まずは晴真と二人で歩く」


「分かりました」


一同は晴隆に任せることにした。



晴隆は屋敷を出ると 城下町をゆっくり歩き始めた。


晴真もその隣を歩く。


朝の城下町は活気に満ちていた。


店を開く商人。


竹ぼうきを手に掃除をする人々。


子どもたちの元気な笑い声。


「おはようございます 晴隆様」


「おはよう」


町の人々は晴隆を見ると 自然に頭を下げる。


晴真も慌てて一緒に頭を下げた。


「人気者なんですね」


「長く生きておれば 顔見知りも増える」


晴隆は笑った。



やがて城下町を抜けると 小川が流れる谷津田が広がっていた。


風に揺れる稲。


水路を流れる澄んだ水。


遠くでは鳥がさえずっている。


晴隆は何も言わず そのまま歩き続ける。


さらに里山へ入る。


木漏れ日が差し込む山道。


心地よい風が頬を撫でる。


しばらく歩くと 水音が少しずつ大きくなってきた。


「聞こえるか?」


「はい」


「滝ですね」


木々を抜けた先には 美しい滝が流れていた。


岩肌を伝い 白い水しぶきを上げながら絶え間なく流れ続けている。


晴真は思わず見入った。


「きれい……」


晴隆は滝ではなく その上流から下流へ流れる川を見つめた。


「晴真」


「この川を見て 何か気付くことはあるか?」


晴真は首を傾げながら川を眺める。


「うーん……」


「ずっと流れています」


「うむ」


「他には?」


晴真はさらに目を凝らした。


「あっ」


「ここは流れが速いです」


「でも 向こうはゆっくり流れています」


「岩のところでは勢いが変わるし 水が溜まっている場所もあります」


晴隆は満足そうに頷いた。


「その通りじゃ」


晴隆は川を指差す。


「この川は すべて同じ水源から流れてきておる」


「途中で急流になり」


「穏やかな流れになり」


「淀みができ」


「また流れ始める」


「姿は変わっても 水そのものは同じじゃ」


晴真は静かに川を見つめる。


「そして最後には……」


「海へ辿り着く」


晴隆は微笑んだ。


「そうじゃ」


「川にも それぞれ流れ方がある」


「同じ水でも 場所によって姿を変える」


「だが 水源は一つ」


晴真はまだ意味が分からず 首を傾げる。


「それが修練と関係あるんですか?」


晴隆は意味深に笑った。


「大いにある」


「陰陽師も同じじゃ」


「霊力もまた 水と変わらぬ」


「だが その意味はまだ教えん」


「まずは自分の目で見て 自分で考えることじゃ」


晴真はもう一度 川を見つめた。


急流。


穏やかな流れ。


淀み。


滝。


そして 絶えず流れ続ける水。


その景色は 不思議と目を離せなかった。


晴隆は滝へ視線を向け 小さく微笑む。


「さあ」


「ここからが本当の修練じゃ」


滝の轟音が 里山に力強く響いていた。

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