第二十九話 晴真の真実
座敷には静かな空気が流れていた。
正臣は晴隆へ向き直る。
「晴隆様」
「晴真の霊力量は 私が今まで見てきた生徒とは比べものになりません」
「少し流したつもりでも 術が暴走してしまいます」
「私では原因が分からないのです」
晴隆は静かに頷いた。
「晴真」
「少しこちらへ来なさい」
「はい」
晴真は素直に晴隆の前へ座る。
晴隆は晴真の背中へ静かに手を当て 目を閉じた。
部屋中が静まり返る。
やがて――
晴隆の目がゆっくり開いた。
「なるほど」
その一言に 一同が息をのむ。
「原因は分かった」
正臣が身を乗り出す。
「本当ですか?」
晴隆はゆっくり頷いた。
「正臣」
「お前は晴真の霊力量が多いと思っておるな」
「はい」
「ですが それだけではありません」
「そうだ」
「晴真の霊力量が多いのは事実」
「しかし それは結果に過ぎん」
晴隆は晴真の下腹部へそっと手を当てた。
「ここが丹田じゃ」
「丹田とは霊力の源」
「霊力が生まれ 蓄えられる場所だ」
晴真は自分のお腹を見る。
「ここが……」
晴隆は頷く。
「陰陽術は四つの要素で成り立つ」
「霊力量」
「霊質」
「霊圧」
「そして霊脈」
「この四つは互いに影響し合うが それぞれ別の能力じゃ」
正臣たちも真剣に耳を傾ける。
「霊力量とは霊力の総量」
「霊質とは霊力そのものの密度や純度」
「霊圧とは霊力を押し出す力」
「霊脈とは霊力が流れる道じゃ」
晴隆は晴真を見つめた。
「晴真は霊力を操作できていないと思われていた」
「だが 違う」
正臣が驚く。
「違う?」
「晴真は むしろ操作できすぎている」
一同が目を見開いた。
「晴真は お前が教えた通り細く長く霊力を流しておる」
「流し方そのものは間違っておらん」
「では なぜ暴走するのですか?」
晴隆は静かに答えた。
「霊力の源が大きすぎるからじゃ」
部屋が静まり返る。
「丹田そのものが規格外」
「そこから生まれる霊力量も桁違い」
「さらに 生まれつき霊圧も極めて強い」
「細く流したつもりでも その強すぎる霊圧によって必要以上の霊力が札へ押し込まれてしまう」
正臣は思わず息をのんだ。
「だから……」
「火柱になり」
「巨大結界となり」
「封印術も暴走した……」
晴隆は頷く。
「その通りじゃ」
さらに続ける。
「もう一つ問題がある」
「晴真は今 この強すぎる霊圧を制御できておらん」
「そのため 霊力が常に身体の外へ漏れ続けている」
晴臣が驚く。
「垂れ流しているのか?」
「そうじゃ」
「蛇口を閉め切れず 水が常に漏れているようなもの」
「その漏れ出た霊力まで 術を発動した瞬間に札へ吸い込まれてしまう」
「だから暴走する」
正臣はようやく全てが繋がった。
「そういうことだったのか……」
「私の教え方が悪かったわけでは……」
晴隆は笑う。
「いや」
「基礎は間違っておらん」
「相手が規格外だっただけじゃ」
座敷には苦笑が広がった。
晴真だけが困ったように笑う。
「僕 そんなに変なんですか?」
「変じゃ」
晴隆は即答した。
「今まで見た中で一番じゃ」
「えぇ……」
座敷が笑いに包まれた。
その空気の中で 晴隆は晴真を優しく見つめる。
「晴真」
「一つ頼みがある」
「はい?」
「わしのことは お爺様ではなく……」
少し照れくさそうに笑う。
「お爺ちゃんと呼べ」
一同が固まった。
「えっ?」
晴真が目を丸くする。
紫乃も驚いて晴隆を見る。
「あなた」
「何を言っているのです」
「御堂家の品格を何とお考えですか」
晴隆は鼻を鳴らした。
「そんなものにこだわったせいで」
「こんなに可愛い孫と何年も会えなかった」
「もう十分じゃ」
「紫乃」
「お前も お婆様ではなく おばあちゃんと呼んでもらえ」
「なっ……」
紫乃は言葉を失う。
晴臣も目を丸くしていた。
「親父がそんなこと言うなんて……」
沙羅は思わず吹き出した。
「伯父さん 完全に孫馬鹿じゃねぇか」
「うるさい」
晴隆は照れ隠しに咳払いをする。
晴真は二人を交互に見つめた。
少しだけ照れながら笑う。
「じゃあ……」
「おじいちゃん」
「おばあちゃん」
晴隆と紫乃は同時に顔を上げる。
晴真はにっこりと笑った。
「おじいちゃんとおばあちゃんに会えて 本当に嬉しいです」
「ありがとうございます」
その一言だった。
晴隆の目には涙が浮かび 紫乃は静かに晴真を抱き寄せた。
「こちらこそ……」
「会いに来てくれて ありがとう」
晴臣はその光景を見つめ 小さく微笑む。
長い間止まっていた御堂家の時間が
ようやく少しずつ動き始めたのだった。




