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第二十四話 補習授業


 翌日。


一年一組の授業が終わると 正臣が晴真を呼び止めた。


「晴真」


「今日の放課後 少し補習をしよう」


「補習ですか」


晴真は少し申し訳なさそうな顔をする。


「昨日のこともある」


「霊力の扱い方の基礎を覚えておいた方がいい」


「はい!」


晴真は元気よく返事をした。


凛が心配そうに近づく。


「無理しないでね」


「ありがとう」


「頑張ってくる」


道満も通り過ぎながら言った。


「昨日のようなことは二度と起こすな」


「周りも驚く」


「うん」


晴真は素直に頷いた。



放課後。


演習場には正臣と晴真だけがいた。


正臣は札を一枚取り出し 静かに口を開く。


「今日は術は教えない」


「まずは霊力を知るところから始める」


「はい」


「目を閉じろ」


晴真は正座し ゆっくり目を閉じた。


「呼吸を整えろ」


「息を吸って 吐く」


「身体の中を流れる霊力を感じてみろ」


晴真は言われた通り 静かに呼吸を繰り返した。


しばらくすると 小さく目を開ける。


「先生」


「身体の中が温かいです」


正臣は静かに頷いた。


「それが霊力だ」


「昨日は その霊力を一度に札へ流してしまった」


「だから術が暴走した」


「全部流してたんですか」


「いや」


正臣は首を横に振る。


「全部ではない」


「ほんの一部だ」


晴真は驚いて顔を上げた。


「えっ」


「君は自分で思っている以上に霊力量が多い」


「昨日流れた霊力も 君の中にある力の一部に過ぎない」


晴真は目を丸くする。


「そんなに」


正臣は静かに続けた。


「霊力量が多いこと自体は悪いことじゃない」


「問題は それを制御できていないことだ」


そう言うと 小石を一つ拾い上げる。


「桶いっぱいの水でも 柄杓で少しずつ汲めば扱える」


「だが 一気にひっくり返せば 自分まで飲み込まれる」


「昨日の君は まさにその状態だった」


晴真は真剣な表情で頷く。


「少しずつ」


「そうだ」


「必要な量だけ流す」


「それが陰陽術の基本だ」



しばらく呼吸の練習を続けた後 晴真がぽつりと呟いた。


「父さんは」


「陰陽術を教えてくれませんでした」


「僕には才能がないからだと思ってました」


その言葉に 正臣は少し懐かしそうに笑う。


「違う」


「晴臣さんは君を守ろうとしていた」


「守る」


「俺は学園で晴臣さんの後輩だった」


「六つ年上の先輩でな」


「面倒見が良くて よく世話になった」


正臣は遠い昔を思い出すように微笑む。


「あの人は昔から言っていた」


『普通の陰陽眼なら 表佐倉で普通に暮らせる方が幸せだ』


『危険な世界に関わる必要はない』


「だから君にも陰陽術を教えなかったんだ」


「普通の人生を歩ませたかった」


晴真は父の顔を思い浮かべる。


「父さん」


「だが 君は金桜眼だった」


「学園へ来る運命だったんだろう」


正臣は穏やかに笑う。


「これから覚えればいい」


「焦る必要はない」


「はい!」



その頃――


学園長室。


若陽の前には 沙羅 ミヅチ 銀花 チヨヒメ 珠代 クシナダが集まっていた。


沙羅が腕を組む。


「昨日の件を報告しに来た」


「晴真が式神術で とんでもない霊力を放った」


「一瞬だったが 神気に届きかけた」


「白い大蛇まで姿を現した」


若陽は静かに目を閉じる。


「やはり」


ミヅチが続ける。


「妾も霊視した」


「とんでもない霊力量じゃ」


「歴代の金桜眼と比べても桁違いじゃぞ」


クシナダも静かに頷く。


「龍姫様以上かもしれぬ」


銀花が少し不安そうに尋ねた。


「ですが 晴真様ご本人は何も気付いておりません」


若陽は穏やかに微笑む。


「それでよいのです」


「今はまだ 一人の新入生として学ばせましょう」


沙羅が口を開く。


「放っておいて大丈夫なのか」


若陽は窓の外の桜を見つめた。


「金桜眼は 生まれただけでは完成しません」


「人との出会い」


「仲間との絆」


「学び」


「その全てが揃った時 真の金桜眼は花開くのです」


部屋は静かな空気に包まれた。



一方その頃。


演習場では晴真が静かに呼吸を続けていた。


吸って。


吐いて。


焦らず。


少しずつ。


その繰り返しの中で 指先へごくわずかな霊力が集まり始める。


昨日のような暴走はない。


正臣は小さく頷いた。


「そうだ」


「その感覚を忘れるな」


「陰陽術は 力を持つことではない」


「力を扱えるようになることだ」


「はい!」


晴真は力強く返事をした。

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