第二十三話 医務室にて
医務室。
晴真は静かに眠っていた。
その傍らには保健の先生、江原鈴花が立っている。
診察を終えた鈴花は穏やかに微笑んだ。
「安心してください」
「霊力を一気に使い過ぎただけです」
「少し休めば目を覚ますでしょう」
その言葉に正臣たちは胸をなで下ろした。
「よかった……」
銀花はほっと息をつく。
沙羅も小さく肩の力を抜いた。
その時。
ミヅチが正臣へ視線を向けた。
「確認じゃ」
「あれを見たのは誰じゃ」
正臣は静かに答える。
「私と」
「凛さん」
「道満くん」
「それと沙羅さんたちだけです」
ミヅチは満足そうに頷く。
「あの二人は金桜眼のことを父親から聞いておる」
「軽々しく話すことはあるまい」
正臣と沙羅も静かに頷いた。
正臣は少し考えてから口を開く。
「ミヅチ様」
「先ほど現れた白蛇は……」
「あなた方と同じ神の眷属ではありませんか」
ミヅチは思わず吹き出した。
「くくっ」
「初めて式神を呼ぶ童が」
「妾たち神の眷属を呼び出そうとはのう」
「普通ならあり得ぬ」
正臣は真剣な表情のままだった。
「ですが」
「確かに繋がりかけました」
「私ははっきり感じました」
沙羅も腕を組む。
「俺も同じだ」
「一瞬だったが神気だった」
正臣は首をかしげる。
「ですが不思議なんです」
「桜の霊力は」
「沙羅さんとミヅチ様が表佐倉で会った時」
「人より少し多い程度だと言っていましたよね」
「そうじゃ」
ミヅチも眉をひそめる。
「確かにそのはずじゃった」
「妾も勝手に霊視するのは気が引けるが……」
「もう一度見てみよう」
ミヅチが静かに晴真へ手をかざす。
沙羅。
チヨヒメ。
珠代。
クシナダ。
銀花も同じように霊視する。
その瞬間だった。
「!」
部屋の空気が変わる。
晴真の身体から、とてつもない量の霊力が溢れ出していた。
まるで大河のような霊力。
静かに。
だが絶えることなく流れ続けている。
「なんじゃこれは……」
ミヅチが目を見開く。
チヨヒメも息をのむ。
「こんな霊力……」
クシナダも険しい表情になる。
「おいミヅチ」
「本当にちゃんと霊視したのか」
「龍姫様以上ではないか」
沙羅も信じられないという顔だった。
「いや……」
「こんなはずはねぇ」
銀花が静かに口を開く。
「表佐倉では」
「霊力には強い圧力が掛かります」
「そのため本来の力を発揮することは難しいと言われています」
全員が銀花を見る。
「その表佐倉で」
「裏佐倉の人より少し霊力が多いと見えたということは……」
銀花は晴真を見つめた。
「本来の霊力は」
「圧力によって隠されていたのではないでしょうか」
ミヅチは目を細める。
「なるほどのう」
銀花も思い出したように言う。
「そういえば」
「晴真様」
「式神バスの中で力がみなぎってくると言っていました」
チヨヒメは静かに頷く。
「裏佐倉へ入ったことで」
「本来の力が目覚め始めたのですね」
部屋の中が静まり返る。
誰もが晴真を見つめていた。
その時。
「ん……」
晴真がゆっくりと目を開けた。
「ここは……」
辺りを見回し、不思議そうな顔をする。
そして申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい」
「失敗しちゃいました」
その一言に部屋の全員が顔を見合わせる。
沙羅は思わず苦笑した。
「本人だけが何も分かってねぇか」
ミヅチも小さく笑う。
「それでよい」
「今はまだ……のう」
誰も真実を口にはしなかった。




