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第二十話 歓迎会


 三十分後――


黒桜寮の食堂には、新入生たちが続々と集まっていた。


広々とした食堂には大きな木のテーブルが並び、厨房からは食欲をそそる香りが漂ってくる。


「うわぁ……」


晴真は思わず目を丸くした。


長い机いっぱいに料理が並んでいる。


炊きたてのご飯


具だくさんの味噌汁


焼き魚に唐揚げ


煮物や天ぷら


新鮮な野菜のサラダ


さらに団子や羊羹、季節の果物まで用意されていた。


「すげぇ!」


刀也が目を輝かせる。


「毎日こんなに食えるのか!」


その時、厨房から元気な女性の声が響いた。


「今日は歓迎会だから特別だよ!」


大きなお盆を抱えて現れたのは、


黒桜寮の寮母――鍋山摩季(なべやま まき)だった。


明るい笑顔が似合う頼れるお姉さん。


黒桜寮の卒業生で、御堂沙羅や勝田正臣と同級生だった人物である。


「でも普段のご飯も自信あるからね」


摩季は胸を張って笑う。


その後ろでは銀花が料理を運んでいた。


「銀花さんも手伝ってたんですね」


晴真が声を掛ける。


銀花は優しく微笑んだ。


「はい。摩季さんのお手伝いです」


「銀花は本当に助かるんだよ」


摩季は笑いながら最後の料理を並べた。


その横では、すでに席についていた沙羅が大皿の唐揚げをつまんでいる。


「おい摩季」


「味見は終わったぞ」


「それ味見じゃなくて普通につまみ食いだろ!」


摩季が呆れて言う。


隣ではミヅチがくすくす笑っていた。


「相変わらずじゃのう」


「沙羅は待つということを知らぬ」


「細かいこと気にすんな」


沙羅は悪びれもせず笑う


刀也が嬉しそうに声を上げた。


「沙羅姉も来てたのか!」


「歓迎会だからな」


「たまには顔を出してやろうと思ってな」


迅は鼻をひくつかせた。


「もう限界だ」


「早く食おうぜ」


「まだだ」


刀姫がぴしゃりと言う。


「全員そろってから」


「はーい……」


刀也と迅は同時に肩を落とした。


その様子に食堂中から笑いが起こる。


やがて全員が席につくと、刀姫が前へ出た。


「改めて新入生のみんな」


「黒桜寮へようこそ」


食堂が静まり返る。


「黒桜寮は学園でも自由な寮と言われている」


「だからこそ仲間を大切にすること」


「自分を鍛え、互いに支え合うこと」


「それが黒桜寮の伝統だ」


新入生たちは真剣な表情で頷いた。


刀優も前へ出る。


「困ったことがあったら遠慮なく僕たち監督生に相談してください」


「一人で抱え込まなくて大丈夫です」


穏やかな言葉に、新入生たちの表情も和らぐ。


刀姫は小さく頷いた。


「それじゃあ歓迎会を始めよう」


「いただきます!」


元気な声が食堂いっぱいに響く。


「いただきまーす!」


刀也と迅が一番に箸を伸ばいた。


「うめぇ!」


「この唐揚げ最高!」


二人は夢中で頬張る。


与一は呆れ顔だった。


「もう少し落ち着いて食べたらどうだ」


「無理!」


「腹減ってた!」


息ぴったりの返事に晴真は吹き出した。


「本当に仲がいいんだね」


迅は笑う。


「腐れ縁だからな」


「誰が腐れ縁だ!」


刀也も笑い返した。


晴真も唐揚げを一口食べる。


「おいしい……」


思わず笑顔になる。


「表佐倉で食べたことない味だ」


刀優が頷いた。


「寮の食事は栄養だけじゃなく霊力も考えて作られているんだ」


「たくさん食べて大きくなってね」


刀也が満面の笑みで言った。


「やっぱり摩季さんの飯は最高だ!」


迅も大きく頷く。


「いつ食っても美味い!」


摩季は照れくさそうに笑う。


「そんなに褒めてもおかわりしか出ないよ」


「それで十分!」


刀也と迅が声を揃えた。


再び食堂が笑いに包まれる。


一方、少し離れた席では道満たちが食事をしていた。


豪太は山盛りのご飯を勢いよく食べる。


「うまい!」


「おかわり三杯はいけます!」


隼人は眠そうに箸を動かした。


「食えれば何でもいい……」


紅葉は道満の湯飲みにお茶を注ぐ。


「道満様、お茶です」


「ありがとう」


道満は静かに礼を言う。


その様子を見た美鈴が綾女へ小声で話しかけた。


「やっぱり紅葉って道満様のこと大好きだよね」


綾女は小さく頷いた。


その頃。


晴真は食堂を見渡していた。


「みんな楽しそう」


凛も微笑む。


「うん」


「なんだか本当の家族みたい」


その言葉に摩季が優しく笑う。


「寮は家だからね」


「ここにいるみんなが家族なんだよ」


刀優も頷く。


「先輩も後輩も一緒に暮らす家族です」


晴真は胸が温かくなった。


(家族か……)


父と母から離れた寂しさが少しだけ軽くなる。


その時だった。


「晴真!」


刀也が大皿を差し出す。


「この唐揚げもう一個食ってみろ!」


「すっげぇうまいぞ!」


「迅、それ俺の分!」


「早い者勝ち!」


「こら!」


与一が二人を止める。


すると沙羅が笑いながら口を開いた。


「元気が一番だ」


「黒桜寮らしくていいじゃねぇか」


ミヅチも微笑む。


「今年も賑やかな一年になりそうじゃの」


その光景を見つめながら刀姫は静かに笑った。


「今年の一年生も賑やかになりそうだね」


刀優も笑顔で頷く。


「ええ」


「きっといい一年になります」


春の夜


黒桜寮には新入生たちの笑い声と、家族のような温かな時間がいつまでも続いていた。

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