第十八話 ようこそ黒桜寮へ
入学式と自己紹介を終えた新入生たちは、それぞれの寮へ向かうことになった。
「黒桜寮の生徒はこちらへ」
教師の案内で、晴真たちは校舎を出る。
学園の北側へ続く石畳の道を進むと、一際大きな和風建築が姿を現した。
黒い瓦屋根
白壁と木造が調和した堂々たる建物
玄関には大きな黒い桜の紋が掲げられている。
「ここが黒桜寮だ」
刀也は嬉しそうに笑った。
「久しぶりに来た!」
「来たことあるの?」
晴真が尋ねる。
「親父や姉ちゃんについて何度か遊びに来たんだ」
その時だった。
玄関の扉が静かに開く。
現れたのは一人の少女だった。
長い黒髪をなびかせた堂々とした立ち姿。
腰には一振りの刀。
鋭い眼差しの中にも、どこか優しさが感じられる。
「ようこそ黒桜寮へ」
「私は黒桜寮監督生 立身刀姫だ」
刀也はぱっと表情を明るくする。
「姉ちゃん!」
刀姫は少しだけ笑った。
「久しぶりだね 刀也」
その隣へ一人の少年が歩み出る。
黒髪を短く整えた穏やかな雰囲気の少年だった。
「補佐を務める立身刀優です」
「よろしくお願いします」
優しい笑顔に、新入生たちの緊張が少しほぐれる。
刀也が元気よく駆け寄る。
「優兄!」
刀優は笑いながら刀也の頭を軽く撫でた。
「大きくなったな 刀也」
「ちゃんと頑張ってるか?」
「もちろん!」
刀姫が口を開く。
「優」
「荷物の案内をお願い」
「分かったよ 姉さん」
晴真はそのやり取りを見て思わず笑った。
「仲がいいんですね」
刀優も微笑む。
「小さい頃から一緒だからね」
「刀也は本当の弟みたいな存在なんだ」
その時、背後から声が聞こえた。
「刀姫」
振り向くと、白桜寮の制服を着た兄妹が歩いてくる。
「道香!」
刀姫が笑顔で迎える。
二人は自然に笑い合った。
その姿は、まるで長年の親友そのものだった。
学園でも有名な二人。
黒桜寮監督生・立身刀姫
白桜寮監督生・麻賀多道香
二人は「黒白の双桜」と呼ばれ、多くの生徒たちの憧れの存在だった。
その後ろには一人の青年が立っている。
穏やかな笑みを浮かべた端正な青年。
「生徒会長の麻賀多道隆です」
新入生たちは慌てて頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
道隆は優しく頷いた。
「そんなに緊張しなくて大丈夫」
「皆さんの入学を心から歓迎します」
「ありがとうございます!」
その横で道香はきょろきょろと辺りを見回した。
「道満は?」
「あっ」
道満が静かに前へ出る。
「兄上」
「姉上」
深く頭を下げる。
「黒桜寮になったと聞いて心配で来たの」
道香は優しく微笑んだ。
「元気そうで安心した」
「はい」
道満も穏やかに答える。
道香は刀姫へ向き直る。
「刀姫」
「弟のことよろしくお願いね」
刀姫は笑って頷く。
「任せて」
「黒桜寮の生徒はみんな私の大事な後輩だから」
その言葉に、晴真たちの表情も自然と和らいだ。
その時だった。
道隆の視線が晴真へ向く。
「君が桜晴真くんだね」
「は はい!」
晴真は慌てて頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
道隆は穏やかに微笑んだ。
「困ったことがあれば遠慮なく相談してください」
「生徒会も皆さんを支えます」
「ありがとうございます!」
続いて道香も晴真の前へ来る。
晴真の顔を見るなり、ぱっと笑顔になった。
「あなたが晴真くん?」
「はい」
「ふふっ」
「なんだか優しそうな子」
道香は嬉しそうに頷く。
「きっと道満とも仲良くなれるわ」
「え?」
晴真が首をかしげる。
「二人とも真面目だし きっといい友達になれる」
そう言って話をどんどん進めていく。
「休みの日は三人で町へ遊びに行ってもいいし」
「一緒に勉強もできるわね」
「姉上……」
道満が少し困ったように声を掛ける。
しかし道香は気にしない。
「決まりね!」
晴真は苦笑しながら答えた。
「はい 仲良くなれたら嬉しいです」
その素直な返事に道香は満足そうに笑う。
道満はそんな晴真を見つめ、小さくため息をついた。
(また この調子か……)
刀姫はその様子を静かに見守っていた。
学園長や教師たちから晴真について話は聞いている。
しかし、それを表に出すことはない。
他の新入生と変わらない一人の後輩として接する。
それが刀姫のやり方だった。
「さて」
刀姫が全員を見回す。
「これから黒桜寮を案内する」
「今日からここがみんなの家だ」
その言葉に、新入生たちは元気よく返事をした。
「はい!」
黒桜寮での新しい生活が、いよいよ始まろうとしていた。




