第十四話 五行桜が選ぶ寮
教師紹介が終わると、講堂は再び静まり返った。
学園長・若陽が、ゆっくりと前へ進み出る。
「それでは、新入生の寮分けを行います」
その一言に、新入生たちの間に緊張が走る。
若陽は穏やかに微笑んだ。
「佐倉陰陽学園では、成績や家柄で寮は決まりません」
「皆さん自身が持つ心、才能、そして未来の可能性を、五行桜が見定めます」
その言葉とともに、舞台中央の床が淡く輝き始めた。
ゆっくりと現れたのは、一本の大きな桜の木。
幹は黄金色に輝き、五色の花が美しく咲き誇っている。
黒
白
黄
紅
蒼
講堂から感嘆の声が上がる。
「すごい……」
晴真は思わず見入っていた。
「これが五行桜……」
凛も目を輝かせる。
銀花から聞いていた学園の象徴が、今まさに目の前に現れていた。
若陽が静かに告げる。
「名を呼ばれた者は、一人ずつ五行桜の前へ」
最初の新入生が桜の前へ立つ。
すると、一枚の花びらがふわりと舞い上がり、その生徒の胸元へ舞い降りた。
「白桜寮」
講堂から拍手が起こる。
次々と新入生が呼ばれ、それぞれの寮が決まっていく。
やがて――
「立身刀也」
刀也は勢いよく前へ出た。
五行桜の前に立つと、黒い花びらが一枚、迷いなく舞い降りる。
「黒桜寮初等部一組」
「やった!」
刀也は思わず拳を握った。
続いて。
「桜晴真」
晴真は少し緊張しながら前へ出た。
五行桜の前へ立つ。
その瞬間、幹が一度だけ金色に強く輝いた。
次の瞬間――黒い花びらがふわりと舞い降りる。
「黒桜寮初等部一組」
「よしっ!」
刀也が嬉しそうに声を上げた。
「麻賀多凛」
舞い降りたのは、同じ黒い花びらだった。
「黒桜寮初等部一組」
凛は少し驚きながらも静かに一礼する。
続いて。
「風間琥太郎」
白い花びらがふわりと舞った。
「白桜寮初等部二組」
「えっ、別々なんだ」
琥太郎は少し寂しそうに笑う。
晴真は振り返り、大きく手を振った。
「また会えるよ!」
「うん!」
琥太郎も笑顔で頷いた。
「麻賀多葵」
紅色の花びらが舞う。
「紅桜寮初等部四組」
「麻賀多楓」
同じく紅色の花びらが舞い降りた。
「紅桜寮初等部四組」
双子は顔を見合わせ、ほっと笑った。
そして――
講堂の空気が少し変わる。
「麻賀多道満」
道満は堂々と五行桜の前へ歩み出た。
誰もが白い花びらが舞うものと思っていた。
麻賀多宗家は代々、白桜寮。
兄の道隆も
姉の道香も
皆、白桜寮だったからだ。
しかし――
ふわり
舞い降りたのは、黒い花びら
講堂がどよめいた。
「黒桜寮初等部一組」
「えっ……」
「黒桜寮?」
「麻賀多宗家なのに?」
上級生たちも驚きを隠せない。
教師たちも思わず顔を見合わせた。
道満自身も一瞬だけ目を見開いたが、すぐに静かな表情へ戻る。
「承知しました」
そう言って深く一礼した。
若陽は穏やかに微笑むだけだった。
まるで、この結果を最初から知っていたかのように。
その後も寮分けは続いていく。
そして道満と親しくしていた新入生たちも、次々と黒桜寮へ選ばれていった。
「また黒桜だ」
「こっちも黒桜?」
ざわめきが広がる。
「今年の黒桜寮は、ずいぶん賑やかになりそうだな」
そんな声も聞こえてきた。
晴真は黒い花びらを見つめる。
(黒桜寮……)
(どんな毎日が待っているんだろう)
まだ誰も知らない。
この寮に集められた新入生たちが、やがて学園の歴史を大きく動かす存在になっていくことを。




