第十三話 学園長の挨拶
本館へ入ると、そこには広々とした大講堂が広がっていた。
高い天井には美しい木組みが巡らされ、太い柱には桜や蛇を模した彫刻が刻まれている。
正面には大きな舞台。
その奥には、金色の桜を中心に三匹の白蛇が絡み合う学園の紋章が掲げられていた。
「すごい……」
晴真は思わず息をのむ。
教師の案内で新入生たちは席へ着いていく。
初等部、中等部、高等部
それぞれの学年ごとに整然と並び、講堂は静かな緊張感に包まれていた。
やがて――
ゴーン……
厳かな鐘の音が鳴り響く
その瞬間
講堂中が静まり返った。
舞台袖から、一人の小柄な老女がゆっくりと歩いてくる。
白い髪
優しい笑顔
小柄な体からは想像もできないほど、神々しい霊力が講堂全体を包み込んだ。
「学園長……」
上級生たちが小さく頭を下げる。
晴真もその姿を見つめる。
すると、その瞬間だった
――ドクン
胸の奥が熱くなる
右目がじんわりと熱を帯びた。
「え……?」
景色が揺らぐ
学園長の姿が、一瞬だけ大きく霞んだ
そして――
巨大な白蛇
金色の桜の紋様を宿した、美しく神々しい大蛇
天井をはるかに超えるほどの巨体が、静かに晴真を見下ろしていた。
「……!」
晴真は息をのむ
誰も驚いていない。
見えているのは、自分だけだった。
次の瞬間
白蛇はゆっくりと微笑むように目を細める。
再び景色が元に戻る。
そこには、先ほどと変わらぬ穏やかな老女が立っていた。
若陽は晴真へ小さく微笑みかける。
まるで、
「見えたのじゃな」
そう語りかけるような優しい笑顔だった。
晴真は思わず背筋を伸ばす。
(今のは……何だったんだろう)
やがて若陽は新入生全員を見渡し、穏やかに口を開いた。
「皆さん、ようこそ佐倉陰陽学園へ
学園長の御堂若陽です。」
そのは優しい声は講堂の隅々まで響き渡る。
「今日から皆さんは、この学園で多くを学び、多くの仲間と出会い、大きく成長していくことでしょう」
「ですが、ここで学ぶ術や知識以上に大切なものがあります それは、人としてどう在るかということ 仲間を思い、己を律し、正しき道を選ぶ心です」
「この学園で、自分だけの道を見つけてください」
講堂は静まり返り、誰もが若陽の言葉に耳を傾けていた。
挨拶が終わると、一人の少年が壇上へ上がる。
制服の着こなしは乱れ一つない。
背筋をまっすぐ伸ばし、堂々と胸を張っている。
「新入生代表 初等部一年 麻賀多道満」
その名が呼ばれると、講堂から感心したような声が漏れた。
道満は落ち着いた足取りで演台へ進み、一礼する。
そして堂々と入学の誓いを述べ始めた。
その姿に晴真は思う。
(すごいな……同じ年なのに)
誓いの言葉が終わると、大きな拍手が講堂を包んだ。
続いて、若陽が教師たちを紹介していく。
「初等部一年一組担任 式神術担当 勝田正臣先生」
舞台へ現れたのは、凛々しい青年教師だった。
爽やかな笑顔。
真っすぐな立ち姿。
晴真は思わず目を見開く。
(あっ……)
(父さんが話してた先生だ)
「沙羅に昔から振り回されっぱなしだった」
そう笑いながら話していた父の姿を思い出し、晴真は少しだけ親しみを覚えた。
「初等部一年二組担任 弓術担当 鏑木与乃先生」
涼しげな雰囲気をまとった女性教師が一礼する。
背筋を伸ばした美しい立ち姿は、まるで一本の矢のようだった。
「初等部一年三組 封印術担当 麻賀多影行先生」
厳しい眼差しの男性教師が前へ出る。
麻賀多本家の出身で、どこか近寄り難い雰囲気を漂わせていた。
「封印術は陰陽師の礎。
決して疎かにしてはなりません。」
短い一言にも、揺るがぬ自信が感じられる。
「初等部一年四組 結界術担当 西御門紫苑先生」
長い黒髪を揺らしながら、美しい女性教師が静かに一礼する。
その凛とした姿に、講堂は一瞬静まり返った。
「初等部一年五組 札術担当 神門玄先生」
穏やかな笑みを浮かべながらも、その瞳には鋭い知性が宿っている。
晴真たちは、これから自分たちを導いてくれる教師たちの姿を真剣な眼差しで見つめていた。
こうして、新しい学園生活の幕がゆっくりと上がろうとしていた。




