第百二十話 岩富奉先
太と父・豪大のやり取りに周囲が笑いに包まれていた、その時だった。
刀也がふと修練場の端へ目を向ける。
「あれ?」
見覚えのある姿があった。
与一と同じくらいの身長。
一年生とは思えないほどがっしりとした体格。
そしてその手には一本の槍。
刀也の顔がぱっと明るくなる。
「奉先!」
少年が振り返る。
「お前も来てたのか!」
「刀也」
岩富奉先は槍を肩へ担ぎながら歩いてきた。
「父上と伯父上についてきた」
「そっか!」
奉先は刀也の持つ木刀へ視線を向ける。
「さっきの立ち合いも見てたぞ」
「小篠塚流の技」
「なかなかだったな」
刀也は嬉しそうに笑う。
「そうか?」
しかしすぐに首を振った。
「まだまだだよ」
「もっと練習しねぇとな」
そして奉先の槍を見る。
「それに今度、槍も覚えたいからさ」
「その時は頼むな奉先!」
奉先が一瞬きょとんとする。
そして思わず笑った。
「刀也が槍を覚えるのか?」
「なんだよ」
「悪いか?」
「いや」
奉先は楽しそうに笑う。
「お前、前まで刀以外には興味なかっただろ」
刀也は胸を張った。
「俺の目標はクシナダ様だからな!」
その言葉に迷いはない。
「剣も!」
「槍も!」
「薙刀も!」
「体術も!」
刀也は拳を握る。
「学べるものは全部学んで」
「全部の武術を覚えてやるぜ!」
奉先は刀也を見つめる。
「ははは!」
声を上げて笑った。
「お前は本当に面白いな」
「だろ?」
「褒めてない」
「なんだよ!」
二人が笑う。
その時。
奉先の視線が少し離れた場所へ向いた。
そこには晴真がいた。
「そういえば」
奉先が晴真を見る。
「さっきの陰陽術」
「凄かったな」
「え?」
晴真が自分を指差す。
「僕?」
「ああ」
「六枚同時に札を使ったやつ」
「正直、何をやってるのか途中から分からなかった」
「あはは……」
晴真は困ったように笑った。
奉先は槍を持ち直す。
「挨拶が遅れたな」
晴真の前へ立つ。
「俺は初等部一年三組」
「黄桜寮の岩富奉先だ」
晴真も笑顔になる。
「僕は一年一組の桜晴真」
「よろしく」
「ああ」
二人は自然と手を差し出す。
ぎゅっと握手を交わした。
奉先は晴真を改めて見る。
「桜は陰陽術が得意なんだな」
「武術はやらないのか?」
「うーん」
晴真は少し考える。
「僕は護身程度しかやらないよ」
その瞬間。
「よく言うぜ」
刀也が横から割り込んできた。
「え?」
刀也が晴真を指差す。
「合気術で俺に勝っておいて」
奉先が目を丸くした。
「刀也に勝った?」
「うん」
刀也が頷く。
「投げられた」
「いやいや!」
晴真が慌てて手を振る。
「あれは運が良かっただけだよ!」
奉先は晴真を見る。
次に刀也を見る。
そしてもう一度晴真を見る。
「いや」
きっぱりと言った。
「運だけで刀也には勝てない」
「そうかなぁ……」
晴真は照れくさそうに頬を掻く。
「そうだ」
奉先が頷く。
「刀也は昔から馬鹿みたいに剣を振ってるからな」
「おい!」
刀也が突っ込む。
「馬鹿みたいは余計だ!」
「事実だろ」
「毎朝何本振ってると思ってんだ!」
「だから馬鹿みたいって言ってる」
「奉先!」
二人のやり取りに晴真が笑う。
すると刀也が突然二人の肩へ腕を回した。
「よし!」
「なに?」
「なんだ?」
刀也は満面の笑みを浮かべる。
「晴真は俺の親友!」
「奉先も俺の従兄弟で親友!」
晴真と奉先が顔を見合わせる。
「だから!」
刀也は二人を指差した。
「お前らも今日から下の名前で呼び合え!」
「……何だそれ」
奉先が呆れたように笑う。
晴真も吹き出した。
「あはは」
「刀也らしいね」
「いいだろ!」
「仲良くなるなら名前で呼んだ方が早い!」
「無茶苦茶だな」
そう言いながらも奉先は嫌そうではない。
晴真が笑顔で手を差し出した。
「じゃあ」
「奉先」
「よろしく」
奉先は一瞬だけ目を丸くする。
そして笑った。
「ああ」
晴真の手を握る。
「晴真」
「よろしく」
「うん!」
そんな二人を見て刀也は腕を組む。
「うんうん」
何度も満足そうに頷いていた。
「これでよし!」
「何がだよ」
奉先が笑う。
「刀也君、何もしてないよね?」
晴真も笑う。
「しただろ!」
刀也は胸を張る。
「二人を親友にした!」
「勝手に決めるな!」
奉先が笑いながら刀也の肩を小突く。
晴真も楽しそうに笑っていた。
剣を追う刀也。
槍を手にする奉先。
そして陰陽術を学びながら合気術を身につける晴真。
進む道はそれぞれ違う。
けれどその違いを気にする者は三人の中には誰もいなかった。
「そうだ奉先!」
刀也が目を輝かせる。
「今度、槍教えてくれよ!」
「まず基本からだぞ」
「おう!」
「いきなり技を使おうとするなよ」
「分かってるって!」
奉先がじっと刀也を見る。
「……本当に?」
「たぶん!」
「やっぱり駄目じゃないか」
「あははは!」
晴真の笑い声が修練場に響いた。




