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第百十七話 十五人の力


 三人の当主と一年一組が、修練場の中央へ向かう。


その時――。


クシナダがゆっくりと前へ出た。


「では、私が審判をやろう」


神門蓮雅が振り返る。


「クシナダ様のお手を煩わせるまでもございません」


そう言って、一年一組を見渡した。


「すぐに終わらせますよ」


「まあ良いではないか」


クシナダは楽しそうに笑う。


「余興じゃ」


「……承知いたしました」


一方。


晴真の肩では、桜花が小さな拳を握っていた。


「晴真様!」


「頑張りましょう!」


「うん!」


晴真も笑う。


ところが――。


ひょい。


「え?」


春花が桜花を抱き上げた。


そのまま観覧席へ歩いていく。


「春花さん!?」


「何するんですか!」


「桜花」


春花は眼鏡を直した。


「晴真様が、ご友人たちと力を合わせて戦うのです」


「あなたが手を貸しては邪魔になります」


「でも私も晴真様の式神です!」


「だからこそです」


春花は桜花を観覧席へ座らせる。


「今日は見守りなさい」


「……はい」


桜花は頬を膨らませた。


「晴真様ぁ……」


晴真が苦笑する。


「頑張ってくるね」


「絶対勝ってください!」


「うん!」


クシナダが両者を見渡した。


「双方、準備はよいな」


一年一組。


十五人がそれぞれの武器を構える。


対する三人の当主は、未だ余裕を崩さない。


「では――」


クシナダの手が振り下ろされた。


「始め!」


その瞬間。


「与一君!」


凛の声が響いた。


「了解!」


最後方。


与一はすでに弓を引き絞っている。


番えているのは一本ではない。


複数の矢。


「行きます!」


バシュシュシュシュッ!!


一斉に放たれた矢が、三人へ降り注ぐ。


「ふん」


西御門紫玄が片手を上げた。


「結界」


バァン!!


光の壁が展開する。


矢は一本残らず弾き飛ばされた。


「この程度か」


紫玄が呟く。


しかし――。


「違いますよ」


与一が笑った。


「俺は、後ろを見てもらっただけです」


「何?」


「刀也君!」


凛の声が飛ぶ。


「おう!」


すでに刀也と太一が、左右から迫っていた。


二人が同時に刀を振りかぶる。


「行くぞ!」


「小篠塚流 大斬刃!」


二人の刀へ霊力が集中する。


ズバァァァン!!


巨大な二つの斬撃が、左右から景虎へ襲いかかった。


麻賀多景虎が前へ出る。


腰の刀を抜いた。


ガギィィィン!!


二つの斬撃を、一刀で受け止める。


「おおっ!?」


刀也の目が輝いた。


「剣も使えるんですね!」


太一も驚いたように笑う。


「意外です!」


「貴様ら……!」


景虎の眉がぴくりと動いた。


「舐めるな!」


刀に霊力が巡る。


「私は大篠塚流剣術――免許皆伝じゃ!」


ブンッ!!


「うわっ!」


「くっ!」


二人の刀を一気に弾き飛ばした。


そして、その勢いのまま踏み込む。


狙いは――刀也。


「刀也君!」


小夜の声が飛ぶ。


その瞳が、静かに景虎の動きを追っていた。


いや。


見ているのではない。


――聞いている。


森羅聴。


風の流れ。


地面を踏み締める音。


衣擦れ。


刀が空気を裂く音。


そして――霊力の流れ。


それらすべてから、景虎の次の動きを読み取る。


「右から来ます!」


「何?」


景虎がわずかに目を見開く。


小夜が刀也の前へ飛び出した。


薙刀を斜めに構える。


ガキィン!!


景虎の刀を受ける。


だが、力を正面から受け止めない。


くるり。


小夜は薙刀を滑らせた。


景虎の斬撃を横へ流し、その勢いを利用して薙刀を返す。


「はっ!」


石突が景虎の脇腹へ迫る。


しかし――。


「甘いわ!」


「えっ――」


景虎が強引に刀を返した。


ガァン!!


「きゃっ!」


小夜の薙刀が弾かれる。


完全に体勢が崩れた。


そこへ景虎の刀が迫る。


「小夜!」


ギィィィン!!


寸前。


一本の薙刀が割って入った。


紅葉だった。


「させませんわ!」


「ほう!」


紅葉が歯を食いしばりながら景虎の刀を受け止める。


「小夜!」


「はい!」


小夜はすぐさま後方へ下がった。


その瞬間――。


「今だ!」


刀也。


そして太一。


二人が同時に地面を蹴る。


刀を腰だめに構え、全身を駆け巡る霊力を刀身へ集中させる。


「行くぞ、太一!」


「はい!」


刀也が立身流の疾風突き。


太一もそれに合わせ、立身流の疾風突きを繰り出す。


ドンッ!!


二人が左右から一直線に景虎へ突っ込んだ。


「ふん!」


景虎は刀を戻さない。


空いている左手を突き出す。


「結界!」


バァン!!


光の壁が展開された。


直後。


ガギィィィィン!!


二本の刀が結界へ突き刺さる。


「なっ!?」


刀也の目が見開かれた。


「硬っ!?」


太一も刀へさらに霊力を込める。


「びくともしない!」


二人の突きを受けても――。


結界には傷一つない。


景虎が口元を吊り上げた。


「どうした?」


「その程度か?」


刀也と太一が歯を食いしばる。


「この……!」


「硬すぎるだろ!」


「当然じゃ!」


景虎が得意げに笑った。


「剣術だけではない!」


「麻賀多本家当主たる私の結界を、子供の攻撃程度で破れると思うたか!」


その時だった。


「なら――」


小夜が薙刀を握り直す。


その隣。


紅葉も静かに薙刀を大上段へ構えた。


「これなら、どうでしょう?」


景虎が振り返る。


「何?」


二人の薙刀へ霊力が集まっていく。


小夜が息を整える。


紅葉と視線を合わせた。


言葉はいらない。


同時に――。


振り下ろす。


「はぁぁぁっ!」


「やぁぁぁっ!」


ズバァァァン!!


二本の薙刀から、巨大な霊力の斬撃が放たれ


二つの斬撃は、合わさり 大きな斬撃となる。


ドゴォォォン!!


景虎の結界へ直撃する。


「無駄じゃ!」


景虎が叫ぶ。


だが


ピシッ。


「……何?」


小さな音。


結界の表面に――。


一本の亀裂。


ピシピシッ!


亀裂が広がっていく。


刀也が目を輝かせた。


「入った!」


太一もすぐに気づく。


「結界にヒビが入った!」


「馬鹿な……!」


景虎の顔から笑みが消える。


だが、小夜と紅葉はすでに次の動きへ入っていた。


二人の一撃は――。


結界を破るためではない。


ヒビを入れればいい。


なぜなら。


「今度は俺だぁぁぁぁ!!」


地響きのような声が響いた。


「何!?」


景虎が振り向く。


その視線の先。


豪太がいた。


槍を水平に構え。


腰を深く落とし。


全身の霊力を一点へ集めている。


狙うのは――。


小夜と紅葉が作った結界の亀裂。


「まさか……!」


景虎の顔が引きつる。


豪太が地面を蹴った。


ドンッ!!


一直線。


まるで巨大な猪。


「岩名流――!」


全身を巡る霊力が槍へ集約される。


「猪突撃!!」


ドゴォォォォン!!


槍の穂先が寸分違わず――。


結界の亀裂へ突き刺さった。


バリィィィィン!!


「なっ――!?」


景虎の結界が砕け散る。


そのまま豪太の突進は止まらない。


「うおおおおおおっ!!」


「ぐっ!」


景虎が刀を横にして受け止めた。


だが。


「ぬぅぅぅっ!?」


足が地面を滑る。


一歩。


二歩。


三歩。


「景虎殿!」


蓮雅と紫玄の意識が、一瞬だけそちらへ向いた。


その瞬間。


「隼人君!」


凛の声が修練場へ響いた。


隼人の目が鋭くなる。


「今だ」


「迅!」


「綾女!」


「茜!」


「桔梗!」


「囲め!」


「おう!」


五人の忍びが一斉に散った。


前。


後ろ。


右。


左。


そして上。


シュシュシュシュッ!!


縄の付いたクナイが次々と飛ぶ。


三人の当主を囲むように、地面や柱へ突き刺さった。


「なんだこれは!」


「引け!」


隼人の合図。


五人が同時に縄を引く。


ギュンッ!!


「ぬっ!」


「何!?」


張り巡らされた縄によって逃げ道が塞がれ、三人の位置が強制的に中央へ寄せられる。


「小賢しい!」


蓮雅が札へ手を伸ばした。


だが――。


「遅い!」


隼人が叫ぶ。


その瞬間。


綾女。


茜。


桔梗。


三人が同時に懐へ手を入れた。


取り出したのは、小さな包み。


「投げろ!」


シュシュシュッ!!


三方向から一斉に投げ込まれる。


蓮雅が目を見開いた。


「爆薬!?」


直後――。


ドドドドォォォン!!


激しい爆発が三人を包み込む。


爆炎。


衝撃。


飛び散る土砂。


「ちっ!」


紫玄が咄嗟に両手を前へ出した。


「結界!」


バァン!!


巨大な光の壁が三人を包み込む。


爆炎が結界へ叩きつけられた。


ドドドドッ!!


だが。


結界は崩れない。


「こんなもの――!」


紫玄が声を上げた、その時。


「迅!」


隼人の声が飛んだ。


「待ってたぜ!」


爆炎の向こう側。


バチッ!


紫電が走る。


「何!?」


迅の全身へ風が纏わりつく。


さらに――。


紫色の雷が、その風へ絡みついた。


風遁――。


紫電迅雷。


「行くぜぇぇぇ!!」


ドンッ!!


迅の姿が消えた。


いや。


消えたように見えるほど――。


速い。


次の瞬間。


ギィィィン!!


「なっ!?」


結界の右側へ斬撃。


次は――。


左。


ギィン!!


後ろ。


ガギィン!!


そして――。


前。


ギャァン!!


「どこから――!?」


蓮雅が目を見開く。


迅の姿を捉えられない。


前。


右。


左。


後ろ。


一瞬ごとに位置を変えながら。


四方から。


何度も。


何度も。


斬撃が叩き込まれていく。


ギン!


ガギン!


ギィィン!!


ガァァン!!


「くっ……!」


紫玄の表情から余裕が消える。


右を補強すれば、左。


左を補強すれば、背後。


背後へ意識を向ければ、正面。


しかも――。


迅は止まらない。


「この……!」


紫玄は結界へ霊力を送り続ける。


防ぐので――。


精一杯。


「紫玄殿!」


蓮雅が札を構えようとする。


だが。


ギャァァン!!


目の前の結界へ斬撃が叩き込まれた。


「ちっ!」


思わず腕で顔を庇う。


その瞬間。


隼人が静かに呟いた。


「よし」


迅の役目は――。


結界を破ることではない。


三人の視線を奪うこと。


紫玄に結界を維持させること。


蓮雅に札を使わせないこと。


そして。


三人をその場へ釘付けにすること。


「十分だ」


隼人が後方へ視線を送る。


そこには――。


すでに札を構えた道満がいた。


一枚。


二枚。


三枚。


三枚の札。


そのすべてへ霊力が流れ込んでいる。


道満の目が鋭くなる。


「次は――」


三枚の札を一斉に掲げた。


「俺たちだ」


バチッ。


札から雷光が弾ける。


「雷撃!」


バチバチバチッ!!


三枚。


同時発動。


一つ。


二つ。


三つ。


三つの雷撃が同時に生まれた。


「なっ――!」


蓮雅の顔から初めて――。


完全に余裕が消えた。


「三枚同時発動だと!?」


だが。


道満だけではない。


反対側では、凛も三枚の札を構えていた。


「火炎!」


ゴォォォッ!!


三枚の札が同時に光る。


一つ。


二つ。


三つ。


三つの炎が燃え上がった。


紫玄も目を見開く。


「こちらも三枚!?」


初等部一年生。


それも――。


二人同時に。


札術の多重発動。


蓮雅の目が鋭くなる。


「なるほど……」


驚きはした。


だが、それも一瞬。


「少しは出来るようだな」


蓮雅が四枚の札を取り出す。


「だが――」


四枚すべてへ霊力が流れ込む。


「この程度で驚くと思うな!」


四枚が同時に光った。


「激水!」


ドバァァァァッ!!


四つの激流が生まれる。


「四枚同時発動!?」


一年一組から驚きの声が上がる。


景虎もすぐに三枚の札を抜いた。


「土石!」


ドドドッ!!


三つの巨大な岩塊が隆起する。


蓮雅の激水が道満の雷撃を押し返し。


景虎の土石が凛の火炎を受け止める。


ドゴォォォン!!


術と術が正面から激突した。


蓮雅が口元を吊り上げる。


「どうした!」


「これが当主というものだ!」


その時。


「晴真君!」


凛が叫んだ。


「うん!」


晴真が前へ出る。


その手には――。


札。


一枚。


二枚。


三枚。


四枚。


五枚。


そして――。


六枚。


蓮雅の動きが止まった。


「……六枚?」


晴真は深く息を吸う。


丹田へ霊力を集め。


六本の霊脈を、それぞれの札へ繋いだ。


「旋風!」


六枚すべてが同時に光る。


ゴォォォォォッ!!


一つ。


二つ。


三つ。


四つ。


五つ。


六つ。


六つの旋風が同時に発生した。


「…………」


三人の当主が固まった。


蓮雅は、自分の目に映っているものが理解できない。


「六……?」


「六枚同時……?」


観覧席にも、一瞬の静寂が訪れた。


そして――。


「ぶはっ!」


沙羅が吹き出す。


「やりやがった!」


ミヅチも扇子で口元を隠しながら笑った。


「また晴真がやりおったわ」


チヨヒメも楽しそうに微笑む。


「六枚になりましたか」


正臣だけが頭を抱えた。


「いつの間に増えたんだ……」


晴隆は豪快に笑う。


「はっはっは!」


「良いぞ、晴真!」


春花の隣では桜花が胸を張っている。


「晴真様ですから!」


「あなたが威張ることではありません」


「いいじゃないですか!」


だが――。


驚くのは、まだ早かった。


修練場。


晴真が二人へ声を掛ける。


「凛ちゃん!」


「はい!」


「道満君!」


「ああ!」


三人が互いを見る。


晴真が笑った。


「行くよ!」


六つの旋風が動き始めた。


一つずつ。


別々に。


三つは――。


凛の火炎へ。


残る三つは――。


道満の雷撃へ。


蓮雅が目を見開いた。


「まさか――」


晴真は六本の霊脈を操る。


六つの旋風。


その一つ一つを――。


別々の術へ繋げていく。


「複合!」


炎と風。


雷と風。


二つの術が重なった。


ゴォォォォォッ!!


バチバチバチバチッ!!


三つの――。


火炎旋風。


そして。


三つの――。


雷撃旋風。


合計六つの複合術が完成する。


「馬鹿な!」


蓮雅の顔が引きつった。


紫玄も絶句する。


「複合術まで……!?」


しかも。


一つではない。


六つ――。


同時に。


「行け!」


道満が手を振り下ろす。


「一斉に!」


凛も続いた。


六つの複合術が、三人へ襲いかかる。


「紫玄殿!」


「分かっている!」


紫玄が両手を前へ突き出した。


「西御門結界術!」


バァァン!!


巨大な結界が三人を包み込む。


直後――。


ドゴォォォォォォン!!


爆発。


轟音。


衝撃。


修練場全体が揺れた。


砂埃が巻き上がり、三人の姿が完全に消える。


「…………」


観覧席の大人たちまで静まり返った。


やがて――。


風が煙を払っていく。


三人は。


立っていた。


紫玄の結界が辛うじて、六つの複合術を防いでいる。


だが。


「くっ……」


紫玄の額には汗が浮かんでいた。


結界の表面には細かな亀裂が走っている。


「なんという威力だ……」


蓮雅も言葉を失っていた。


「初等部一年生の術ではない……」


景虎が刀を握り直す。


「ふざけおって……!」


その時だった。


「まだ――」


美鈴の声が響く。


「終わってませんよ」


「何?」


三人が周囲を見る。


そこで――。


ようやく気づいた。


囲まれている。


晴真。


凛。


道満。


その三人を除いた――。


十二人。


いつの間にか、一年一組の十二人が三人の当主を中心として配置についていた。


「いつの間に……!」


美鈴が手印を結ぶ。


「第一陣!」


反対側。


綾女が手印を結んだ。


「第二陣!」


六人。


そして六人。


十二人の足元へ術式が広がる。


二つの六方陣。


それが重なり――。


一つの巨大な十二角形を描いた。


蓮雅の顔色が変わる。


「これは……!」


十二人が一斉に手印を結ぶ。


「桜花――!」


声が重なった。


「十二方封印陣!!」


パァァァァッ!!


桜色の光が立ち上る。


巨大な十二角形の封印陣。


その内側を――。


無数の桜の花びらが舞った。


「くっ!」


蓮雅が動こうとする。


だが。


一枚の花びらが腕へ触れた。


その瞬間。


桜色の光が絡みつく。


「何!?」


腕。


脚。


胴。


肩。


次々と桜の花びらが三人へまとわりつき、その身体を封じていく。


「身体が……!」


「動かぬ!」


紫玄が歯を食いしばる。


観覧席。


チヨヒメが目を丸くした。


「まあ……」


ミヅチも扇子を下ろす。


「六方封印陣を二つ重ねおったか」


クシナダは腕を組んだまま笑う。


「面白い」


十二人。


それぞれの霊力は、三人の当主には遠く及ばない。


だが。


十二人の力を繋ぎ。


一つの封印陣として重ねる。


その拘束力は――。


「ぬぅぅぅ……!」


景虎の額にも汗が浮かぶほどだった。


しかし。


相手は裏佐倉の名門を率いる三人の当主。


「舐めるなぁぁぁ!」


蓮雅が吠えた。


三人の霊力が――。


一気に膨れ上がる。


ドンッ!!


「くっ!」


十二人の身体が揺れた。


封印陣が軋む。


ピシッ。


小さな亀裂。


そして。


ピシピシッ!


「破られる!」


美鈴が叫ぶ。


「そのまま!」


凛の声が飛んだ。


「あと少し!」


三人の当主がさらに霊力を解放する。


「はぁぁぁぁぁっ!!」


バリィィィィン!!


桜花十二方封印陣が――。


砕け散った。


桜色の光が無数の破片となって舞う。


「どうだ!」


蓮雅が叫ぶ。


「所詮は子供の――」


そこで。


言葉が止まった。


ひやり。


首筋へ――。


冷たい感触。


「…………」


蓮雅がゆっくり横を見る。


その首には。


道満の札から伸びた――霊刃。


紫玄の首には。


凛の――神楽刀。


そして。


景虎の首には――。


晴真の札から生み出された霊力の刃。


「…………」


三人が固まった。


ようやく理解する。


十二方封印陣は――。


三人を封じ切るためのものではなかった。


破らせるため。


力を使わせるため。


そして。


三人の意識を――。


十二人へ完全に集中させるため。


ほんの一瞬。


それだけでよかった。


最後まで攻撃へ参加しなかった三人。


晴真。


凛。


道満。


その三人が――。


最後の一手だった。


クシナダが静かに手を上げる。


「そこまで」


修練場が――。


静まり返った。


クシナダは三人の当主を見る。


そして。


一年一組の十五人を見る。


口元を上げた。


「勝者――」


一拍。


「一年一組」


一瞬の沈黙。


そして――。


「やったぁぁぁぁぁ!!」


一年一組から歓声が上がった。


刀也と迅が飛び上がる。


「勝ったぁぁ!」


「マジで勝ったぞ!」


豪太が太一の背中を思い切り叩く。


「やったな!」


「痛い痛い!」


美鈴と小夜も顔を見合わせて笑う。


「成功したね!」


「はい!」


紅葉は真っ先に道満を見る。


「流石です、道満様!」


だが。


道満は首を横へ振った。


「違う」


紅葉が目を瞬く。


道満は十五人を見渡す。


「みんなの勝利だ」


紅葉も笑った。


「……はい!」


与一も弓を下ろし、小さく息を吐く。


「やりましたね」


十五人が喜ぶ。


だが――。


それも。


ほんの少しだけだった。


「でもさ」


刀也が突然、首を傾げた。


「最初の俺と太一の攻撃、ちょっとタイミングずれてなかったか?」


「僕も思った」


太一が頷く。


「あと少し同時なら、景虎様をもっと大きく崩せたはずです」


小夜も自分の薙刀を見る。


「わたしも……」


「景虎様の最初の斬撃は読めましたけど、その後の返しまで読めませんでした」


紅葉が頷く。


「わたくしも受け止めるだけで精一杯でしたわ」


豪太が腕を組む。


「俺も結界の亀裂がなかったら、たぶん破れなかったな!」


隼人は忍び組を見る。


「縄を引くタイミングも遅かった」


迅が眉をひそめる。


「俺か?」


「お前だ」


「即答かよ!」


「迅は合図より一瞬早く走り出した」


「早いならいいだろ!」


「連携では駄目だ」


「細けぇ!」


綾女が静かに言う。


「隼人が正しい」


「綾女まで!?」


茜と桔梗も揃って頷いた。


「迅が悪い」


「迅が悪いね」


「お前ら!」


その横。


美鈴も手を上げた。


「十二方陣も危なかったよね」


「もっと十二人の霊力を均等に合わせられたら、あと少し長く保てたと思う」


与一も考え込む。


「最初の矢も、もう少し紫玄様の視界を限定するように撃てたかもしれません」


次々に反省点が出てくる。


道満も晴真を見る。


「それと晴真」


「なに?」


「六枚の複合は成功した」


「うん」


「だが、三つ目の雷撃旋風だけ少し不安定だった」


「あっ」


晴真が苦笑する。


「やっぱり分かった?」


「分かる」


凛も申し訳なさそうに手を上げた。


「たぶん、わたしもです」


「二枚目の火炎が少し弱かったので、晴真君が合わせにくかったと思います」


晴真が首を振る。


「でも僕も、六本を同時に合わせるのでいっぱいだったし」


道満が頷く。


「なら次は、そこを修正する」


刀也が笑う。


「よし!」


「もう一回やろうぜ!」


隼人が呆れる。


「今すぐやる気か?」


「当たり前だろ!」


いつの間にか――。


十五人の反省会が始まっていた。


その光景を。


三人の当主は――。


ただ呆然と見ていた。


勝ったことを自慢するでもない。


自分の技を誇るでもない。


当主三人を倒したと浮かれるでもない。


すでに。


次を考えている。


もっと上手く。


もっと速く。


もっと十五人の力を繋げるために。


西御門紫玄は、静かに自分の手を見る。


自分は最初から――。


子供相手だと思っていた。


自分の結界を破れるはずがない。


攻撃を通されるはずがない。


ましてや。


負けるはずなどない。


だから。


彼らが語った言葉を聞こうともしなかった。


「……そうか」


紫玄が小さく呟く。


「自惚れていたのは――」


子供たちではない。


一年一組を見る。


「我々の方か……」


一方。


神門蓮雅は――。


晴真を凝視していた。


「六枚……」


六枚同時発動。


それだけでも異常。


だが。


本当に理解できないのは、その後。


六つの旋風を。


それぞれ別々に操作した。


さらに。


凛の三つの火炎。


道満の三つの雷撃。


そこへ一本ずつ繋げて――。


六つの複合術を同時に成立させた。


「複合術……」


蓮雅の知る複合術とは違う。


一つの術。


そして。


もう一つの術。


二つを組み合わせる。


それだけでも、高度な霊力制御を必要とする。


それを――。


六つ。


同時。


しかも晴真自身の術だけではない。


他人の術へ自分の術を合わせている。


「なんなのだ……」


蓮雅には――。


まだ理解できなかった。


晴真が何をしているのか。


どんな霊力操作を使っているのか。


どうやって六本もの霊脈を、別々に制御しているのか。


その目にあったのは。


先ほどまでの侮りではない。


純粋な――。


術者としての驚きだった。


そして。


麻賀多景虎。


「…………」


その目だけは。


二人とは違った。


一年一組を見る。


道満。


凛。


そして――。


晴真。


拳が強く握られる。


敗北への悔しさ。


それだけではない。


自分たちが築き上げてきた常識。


長い年月をかけ。


正しいと信じてきたもの。


それを。


年端もいかぬ子供たちが――。


いとも簡単に飛び越えていく。


その事実が。


景虎には――。


許せなかった。


やがて。


その目に浮かんだものは。


明確な――。


憎悪。


「……失礼する」


景虎が突然、背を向けた。


「景虎殿?」


紫玄が呼び止める。


だが。


景虎は振り返らない。


「私はこれで」


それだけ言い残し。


修練場から去っていく。


印旛大龍王が、その背中を静かに見つめていた。


土浮丸も目を細める。


ミヅチは静かに扇子を閉じた。


誰も――。


何も言わなかった。


ただ。


一年一組の子供たちは。


そんな景虎の変化に気づいていない。


「晴真!」


刀也が声を上げた。


「次やる時は、俺にも六枚同時発動教えてくれ!」


「無理だと思うよ」


晴真が即答する。


「なんでだよ!」


「まず二枚からやろうよ」


「じゃあ二枚!」


すると。


道満が冷静に口を挟んだ。


「刀也は一枚をちゃんとやれ」


「道満まで!」


どっと笑い声が上がる。


勝った直後だというのに。


いつもと変わらない。


十五人。


その姿を見ながら。


クシナダは小さく笑った。


一人一人なら――。


まだ未熟。


技も足りない。


経験も足りない。


三人の当主に敵う者など、一人もいない。


だが。


一人の攻撃が。


次の一人へ繋がり。


その一手が。


さらに次の一手を生む。


与一が視線を動かし。


刀也と太一が踏み込み。


小夜が読み。


紅葉が守り。


豪太が砕く。


五人の忍びが囲い。


迅が動きを封じ。


道満と凛が術を放ち。


晴真がそれを繋ぐ。


そして最後は――。


美鈴の指揮で十二人が三人のために道を作る。


誰一人。


欠けても成立しなかった。


勝ったから強いのではない。


互いの強さを知り。


互いの弱さを知り。


足りないところを補い合う。


そして――。


勝ってなお。


自分たちの未熟さを探している。


クシナダの目が細くなる。


「なるほどのぉ……」


楽しそうに笑った。


「こやつらが豪斎を救ったという話」


一年一組の十五人を見る。


「これで――」


「疑う者はおらんじゃろう」

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