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第百十六話 三対十五


 一年一組は修練場の端へ集まっていた。


中心にいるのは道満、凛、隼人、美鈴、与一。


少し離れたところで他の皆も耳を傾けている。


最初に口を開いたのは美鈴だった。


「ねえ」


「一対五の対決を三回にするのはどう?」


「十五人いるから、五人ずつ三組に分かれるの」


凛は少し考えて首を振る。


「それだと難しいと思います」


「よほど相性のいい五人を組ませないと勝機がありません」


その言葉が聞こえたのか。


少し離れた場所で麻賀多景虎が笑った。


「聞いたか」


「どうやらあの子供たち、我々に勝つつもりらしいぞ」


神門蓮雅も小さく笑う。


「元気があって結構なことだ」


西御門紫玄は何も言わず腕を組んでいた。


そんな三人をちらりと見て、道満が口を開く。


「俺は連携力で押し切りたい」


凛もすぐに頷く。


「私もです」


「草笛の丘で戦えたのも、みんなで役割を分担できたからです」


すると刀也が当主たちを見る。


「それにさ」


「なんかあっち仲悪そうじゃね?」


迅も鼻で笑った。


「分かる」


「さっきから全然まとまってねぇ」


その瞬間。


道満の目が変わった。


「それだ」


「え?」


「十五対三で戦う」


皆が道満を見る。


隼人がすぐに意図を理解した。


「なるほど」


「個人の実力では向こうが上」


「だから人数を分けない」


「十五人全員で三人を相手にする」


「そういうことだ」


凛も当主たちへ視線を向ける。


「直弥さんは、ああ見えて私たち一人一人を警戒していました」


「刀也君の剣も、迅君の速さも、与一君の弓も」


「一度見たものはちゃんと警戒していたと思います」


美鈴が苦笑する。


「軽そうに見えて、結構ちゃんと見てたよね」


「ですが今回は違います」


凛の目が鋭くなる。


「当主の方々は完全に私たちを子供だと侮っています」


隼人が頷いた。


「そこは付け入る隙だな」


美鈴が道満を見る。


「でも道満君は警戒されてるんじゃない?」


「麻賀多宗家の天才って有名だもん」


「だろうな」


道満自身も否定しない。


すると凛が晴真を見る。


「でも多分――」


皆の視線が晴真へ集まる。


「晴真君の実力は把握していません」


美鈴がにやりと笑った。


「切り札だね」


「え?」


晴真が自分を指差す。


「僕?」


「そうですよ」


「晴真君です」


「そっかぁ」


晴真は神門蓮雅を見る。


そして――


少し悪そうな笑顔を浮かべた。


「あのさ」


「道満君、凛ちゃん」


二人が晴真を見る。


「神門家の当主さん」


「絶対、複合術とか同時発動とか見せてくるよね」


道満が一瞬黙る。


そして口元を上げた。


「……やりそうだな」


「でしょ?」


凛も何かを察した。


「晴真君」


「何を考えているんですか?」


「その前に聞きたいんだけど」


晴真は凛を見る。


「凛ちゃんって札の同時発動、何枚までできる?」


「私ですか?」


凛は少し考える。


「三枚が限界です」


「道満君は四枚いけるよね?」


「ああ」


「四枚なら安定して発動できる」


「四枚!?」


紅葉が目を輝かせる。


「流石です道満様!」


「紅葉」


「今は褒めなくていい」


「ですが四枚ですよ!」


「分かったから」


美鈴が笑う。


「相変わらずだねぇ」


晴真が小さく手を上げる。


「あの」


「ちなみに僕は――」


皆が見る。


「六枚はいけるんだ」


「…………」


沈黙。


「は?」


迅が最初に声を出した。


刀也も目を丸くする。


「六枚!?」


「うん」


「同時に!?」


「うん」


与一まで驚いている。


「いつの間にそんなことできるようになったんだ?」


「御堂家で練習してたらできた」


「軽く言うなよ!」


刀也が叫ぶ。


紅葉もぽかんとしていた。


「六枚……」


「道満様より……」


道満は晴真をじっと見る。


驚いてはいる。


だが――


すぐに気づいた。


「晴真」


「なに?」


「その先があるんだろ」


晴真が笑う。


「うん」


六本の指を立てるように両手を広げる。


「六枚全部――」


一拍置く。


「複合させる」


「…………」


再び沈黙。


「はぁ!?」


今度は刀也だけではない。


何人もの声が重なった。


道満でさえ目を見開いている。


「六術同時複合……?」


「できるのか?」


「まだやったことないよ」


「おい!」


迅が突っ込む。


晴真は笑った。


「でも多分できる」


「晴真の多分は怖いんだよ!」


美鈴が頭を抱える。


道満は少し考え込む。


「いや……」


「晴真なら可能性はある」


「六本の霊脈を別々に制御できるなら、理屈の上ではできるはずだ」


「ただ六つの術をどう組み合わせるかだな」


その時。


刀也が西御門紫玄を見る。


「でもよ」


「あの西御門の当主が結界で防ぐだろ」


晴真が笑う。


「うん」


「そこを狙う」


刀也の口元が上がった。


「なるほどなぁ」


迅も三人の当主を見る。


そして悪そうに笑った。


「でもよ」


「せっかくなら――」


皆が迅を見る。


「あの仲の悪そうな三人」


「一網打尽にしてやりたくね?」


「それいいね」


晴真が即答した。


「お前も結構悪いな」


「え?」


「褒めてる」


「ありがとう!」


「褒めてねぇよ」


美鈴が笑いながら考える。


「だったら桜花六方封印陣?」


「十五人いるから六方向を作るのは簡単だし」


しかしすぐに顔を曇らせる。


「でも直弥には破られちゃったからなぁ」


「当主三人を同時に閉じ込めても、力ずくで破られたら意味ないよね」


「……重ねる」


小さな声がした。


皆が振り向く。


綾女だった。


普段ほとんど自分から話さない綾女が、道満を見ている。


「道満君の重ね桜」


道満の目が変わる。


「そうか」


綾女は続ける。


「桜花六方封印陣を重ねる」


「一枚が破られても、もう一枚」


「私たちなら二枚同時発動できる」


隼人がすぐに計算する。


「十五人」


「六方封印陣を二重にしても十二人」


「三人余る」


与一が頷く。


「その三人を外からの援護に回せる」


「いけるな」


道満の口元が上がった。


凛も笑う。


「決まりですね」


一年一組の空気が変わる。


先ほどまで相談していた子供たちの顔ではない。


全員が何をすべきか理解し始めている。


その時だった。


「なんだ」


神門蓮雅の声が飛んできた。


「作戦会議は終わったのか」


一年一組が振り向く。


蓮雅は少し苛立ったように腕を組んでいる。


「いつまでも子供の相手をしている暇はない」


「さっさと始めるぞ」


道満が前へ出た。


「では一つお願いがあります」


「なんだ」


「一対五を三回ではなく――」


道満は三人を見る。


「三対十五でお願いします」


一瞬。


当主たちが黙った。


「三対十五?」


西御門紫玄が眉をひそめる。


「はい」


「俺たち十五人全員で、御三方を相手にします」


麻賀多景虎が鼻で笑った。


「なんだってよい」


「始めるぞ」


紫玄も前へ出る。


「先に言っておくが」


「やるからには手加減はしない」


「構いません」


凛が答えた。


「お願いします」


三人の当主が修練場へ向かう。


その背中を見ながら――


一年一組の面々は。


にやにや。


にやにや。


誰もが妙に楽しそうな顔をしていた。


正臣が嫌な予感を覚える。


「お前ら……」


「何企んでるんだ?」


「別に何も」


道満が答える。


「その顔で言われても説得力ないぞ」


少し離れた場所ではミヅチたちがその様子を眺めていた。


ミヅチが扇子で口元を隠す。


「ほほ」


チヨヒメも楽しそうに笑う。


「どうやら何か思いついたようですね」


クシナダは腕を組んだまま一年一組を見る。


「子供と侮った時点で――」


わずかに口元を上げる。


「あの三人の負けかもしれぬな」


印旛大龍王も静かに笑った。


ミヅチが扇子を閉じる。


「こりゃまた――」


「楽しみなことが始まったのぉ」


修練場の中央。


裏佐倉を代表する三家の当主。


対するは――


初等部一年一組、十五人。


誰が見ても。


勝負になるはずのない組み合わせ。


だが。


十五人の子供たちだけは――


最初から勝つつもりだった。

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