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第11話 到着 佐倉陰陽学園

門が完全に開くと、式神バスは静かに境界門をくぐった。


その瞬間――


ふわり


春風が車内へ吹き込む。


「わあ……」


晴真は思わず息をのんだ。


窓の外には、一面に広がる里山


若葉を揺らす木々


色とりどりの草花


さらさらと流れる小川


鳥たちのさえずりが風に乗って聞こえてくる。


「きれい……」


凛が小さくつぶやく


「まるで昔話の世界みたい」


琥太郎も窓へ顔を近づけた。


「本当に異世界なんだ……」


晴真は目を輝かせる。


「すごい! 山も川も全部でっかい!」


晴真と琥太郎は、顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。

「空気まで違うね」


「なんだか力が湧いてくる」


銀花が静かに説明する。


「ここは裏佐倉の入り口です」


「この辺りは、人と自然、そして精霊たちが共に暮らす里山として大切に守られています」


その時だった。


草むらから、小さな白い兎が顔を出した。


続いて、狐の親子が姿を現す。


木の枝には青い羽を持つ小鳥がとまり、式神バスへ向かってさえずった。


「動物が逃げない……」


晴真が驚く。


銀花は優しく微笑んだ。


「この子たちは普通の動物ではありません」


「裏佐倉に住む霊獣や精霊たちです」


「人の心を感じ取り、危険な者には決して近づきません」


晴真の肩に乗った小桜が嬉しそうに鳴く。


「きゅい♪」


すると霊獣たちは一斉に頭を下げた。


「えっ?」


晴真が目を丸くする。


小桜は当然のように小さく頭を揺らして応えた。


「きゅっ」


その姿を見て、銀花はくすりと笑った。


「どうやら皆、小桜を知っているようですね」


「井野丸様の式神ですから」


沙羅もバックミラー越しに晴真を見る。


「小桜がいるだけで、あんたはもう裏佐倉じゃ有名人になりそうね」


「えぇっ!?」


晴真は困ったように笑った。


「そんなつもりはないんですけど……」


「きゅい」


まるで「気にしない、気にしない」と言うように、小桜が晴真の肩をぽんぽんと叩く。


その愛らしい仕草に、車内はまた笑いに包まれた。


式神バスは里山を縫うように伸びる佐倉道をゆっくりと進んでいく。


やがて道はゆるやかな下り坂となり、木々の間から視界が開けていった。


眼下には、豊かな水をたたえた谷津田やつだが一面に広がっている。


谷津田は、谷あいの低い土地に湧き水や雨水を引いてつくられた田んぼで、多くの生き物たちが暮らす自然豊かな場所だった。


水面は春の日差しを受けてきらきらと輝き、カエルやトンボ、小魚たちが元気よく動き回っている。


その向こうに、大きな町並みが少しずつ姿を現した。


「見えてきました」


銀花が前方を指さした。


「あれが裏佐倉の城下町です」


「おおー 久しぶりの裏佐倉城下!」


刀也が思わず立ち上がりそうになる。


「刀也、座ってろ! 危ねぇから!」


沙羅がすかさず注意すると、刀也は慌てて座り直した。


「へへっ、ごめん 久しぶりだから 興奮しちゃって」


バスは城下町へ近づいていく。


石畳の道の両側には、瓦屋根の町家が立ち並び、軒先には色鮮やかな暖簾が揺れていた。


和菓子屋、団子屋、茶屋、鍛冶屋、呉服屋、札具店、薬草店。


どの店も朝から賑わい、人々の笑い声が絶えない。


「昔の町みたい」


晴真が感心したようにつぶやく。


「でも、歩いている人たちが……」


琥太郎は目を丸くした。


大きな鬼が酒樽を軽々と運び、

天狗が屋根から屋根へ飛び移る。


河童たちは水路の掃除をし、

狐耳を持つ娘が団子を頬張りながら歩いている。


頭に小さな角のある子どもたちは、楽しそうに鬼ごっこをしていた。


「鬼も天狗も河童も……みんな普通に暮らしてる」

晴真は目を輝かせた。


銀花が頷く。


「裏佐倉では、人も妖も神の眷属も、皆が同じ町の住人です」


「それぞれが役割を持ち、支え合いながら暮らしています」


その時だった


「おっ、式神バスや!」


「新入生が来たぞ!」


町の人々が次々と手を振り始める。


「今年も可愛い子がおるな!」


「元気に学園生活を送るんだぞ!」


「頑張れよー!」


子どもたちも元気いっぱいに手を振る。


晴真たちも笑顔で手を振り返した。


「よろしくお願いしまーす!」


その様子を見た沙羅が、小さく笑う。


「裏佐倉じゃ、新入生は町みんなで迎えるんだ」


「学園の生徒は、この町の宝だからね」


バスは温かな歓迎を受けながら、賑やかな城下町をゆっくりと走り抜けていく。


やがて町並みは少しずつ途切れ、道は再び緩やかな上り坂へと続いていた。


「この先が愛宕坂です」


銀花が静かに告げる。


坂の両脇には桜並木が続き、淡い花びらが風に乗って舞い上がっていた。


「うわ……きれい」


凛が思わず息をのむ。


花びらはまるで新入生を歓迎するかのように、バスの周囲をふわりと包み込む。


「この桜は、ただの桜ではありません」

銀花が静かに言った。


「学園を守る結界の一部でもあります」


「結界?」


晴真が聞き返す。


「はい。外からの災いを防ぎ、学園と裏佐倉に暮らす人々を守る力を持っています」


「だから、この町は安心して暮らせるのです」


式神バスはゆっくりと愛宕坂を登っていく。


そして、坂を登りきった、その先――


広大な敷地に建つ壮麗な学園が姿を現した。


白壁と木造が美しく調和した校舎群。


広々とした中庭。


遠くには訓練場や演武場が見える。


そして中央には、ひときわ大きな本館が堂々とそびえていた。


「ここが……」


晴真が思わずつぶやく。


「佐倉陰陽学園……!」


新しい世界への入口が、今まさに彼らの目の前に広がっていた。


式神バスはゆっくりと正門前に停車する。


重厚な木製の門には古い紋様が刻まれ、淡い光を放っていた。


門の前には、すでに数人の教師たちが新入生を迎えるために並んでいる。


「到着です」


銀花が立ち上がり、穏やかに告げた。


「皆さん、ようこそ佐倉陰陽学園へ」


その言葉に、車内の空気が一瞬引き締まる。


期待と緊張が入り混じる中、晴真はゆっくりと立ち上がった。


胸の奥が少しだけ高鳴っている。


――ここから始まるんだ


新しい日々が


新しい仲間と、新しい力と


そして、自分の知らなかった世界が


晴真は大きく息を吸い


一歩


バスの外へと踏み出した。

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