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第百四話 大人の事情

 三つの火球を同時に放った晴真をよそに。


少し離れた場所では、大人たちが集まり、先ほどの新術式について話し合っていた。


神門玄が腕を組み、真剣な表情で口を開く。


「この術式は大変素晴らしいものです」


「霊力の流量を 霊脈そのものの太さと本数で調整する」


「術ごとに必要な霊力量を正確に送り込めるようになれば 陰陽術の可能性は大きく広がります」


しかし玄の表情は険しい。


「ですが……」


「これは今の裏佐倉にある陰陽術の根底を ひっくり返しかねない技術です」


「扱いには慎重になるべきだと思います」


紫苑も静かに頷いた。


「私もそう思います」


「いずれは学園の修練へ取り入れるべきでしょう」


「でも明日から生徒たちに教えましょう――というわけにはいきませんね」


「まず安全性を確認する必要があります」


「誰でも扱えるのか」


「霊力量や霊質によって危険性はないのか」


「それに……」


紫苑は少し困ったように笑う。


「学園の教師全員が すんなり受け入れてくれるとも限りません」


「そうじゃな」


道秀が腕を組む。


「新しいものに否定的な者は いつの時代にも大勢おる」


「ましてや――」


晴真たちへ視線を向ける。


「これまで自分たちが正しいと信じてきた霊力操作よりも優れていると知れば なおさらじゃ」


長年積み重ねられてきた陰陽術。


そこには伝統がある。


誇りもある。


家ごとに受け継がれてきた秘術や教えもある。


それを突然現れた少年の発想が、大きく変えてしまうかもしれない。


技術が正しいからといって、誰もが素直に受け入れるとは限らない。


しばらく考えていた正臣が口を開いた。


「でしたら」


「私はこの術式を 公の舞台で披露するべきだと思います」


晴隆が眉を上げる。


「ほう?」


「隠したまま少しずつ広めれば かえって余計な疑念を生みます」


正臣は真剣な表情で続ける。


「ならば多くの陰陽師が見ている前で」


「従来の術式と何が違うのか」


「何ができるようになるのか」


「実際に見せてしまえばいい」


玄が頷く。


「理屈だけで説明するより 実演した方が説得力はありますね」


「それも晴真君だけではなく」


「既存の術式を十分に理解している陰陽師が習得し 同じ結果を出せれば――」


紫苑が続ける。


「晴真君だからできる特殊な技術だ という反論もできなくなりますね」


「そういうことです」


正臣が頷いた。


晴隆はしばらく黙っていたが――。


やがて口元を大きく吊り上げた。


「面白い」


道秀が横目で見る。


「お前 悪い顔をしておるぞ」


「何を言う」


晴隆は豪快に笑った。


「どうせ披露するなら 中途半端ではつまらん」


「誰もが納得する形で」


「文句の一つも言えんほど 堂々と見せつけてやろうではないか!」


「ガッハッハッハ!」


道秀は額を押さえる。


「……お前は昔から そういうところが変わらんな」


玄も苦笑する。


紫苑は楽しそうに微笑み、正臣も小さく笑った。


そんな大人たちから少し離れたところでは――。


「……?」


晴真が不思議そうに首を傾げていた。


何やら大人たちが、自分の考えた霊力操作について盛り上がっている。


しかし。


まさかそれが――。


裏佐倉の陰陽術そのものを変えるかもしれない話になっているとは。


当の晴真は、まだ知る由もなかった。

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