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第百二話 霊門


 晴真は修練場の一角で、太一と向かい合って座っていた。


「じゃあ 太一くん」


「まずは瞑想からやってみよう」


「うん」


太一は少し緊張した様子で背筋を伸ばす。


その時だった。


「晴真君」


声に振り返ると、刀姫、刀優、道香、道隆の四人が歩いてきた。


道隆が穏やかに笑う。


「僕らも混ぜてもらえるかな?」


「えっ?」


晴真は目をぱちぱちさせた。


刀姫は生徒会長。


刀優は監督生。


そして道隆と道香も、学園を代表する優秀な上級生である。


そんな学園のエリートたちに、自分が教える。


「ぼ 僕がですか?」


道香がくすりと笑う。


「晴真君が太一君に教えるんでしょう?」


「だったら私たちにも教えてよ」


「は はい」


晴真は戸惑いながらも頷いた。


「僕でよければ……」


四人も太一の近くに腰を下ろす。


晴真は以前、晴隆から教わった修練を思い出した。


「まず目を閉じて」


「自分の丹田を感じてください」


全員が静かに目を閉じる。


「丹田に集まっている霊力を感じたら それをゆっくり全身へ巡らせます」


「それから また丹田へ戻す」


「戻ってきた霊力に ほんの少しだけ圧をかけます」


晴真は自分のお腹へ手を当てる。


「それを また全身へ巡らせる」


「そして丹田へ戻す」


「これを何度も繰り返します」


静かな時間が流れる。


やがて――。


道香が不思議そうに自分のお腹へ触れた。


「……なんか」


「丹田の辺りが熱くなってきたわ」


道隆も目を閉じたまま頷く。


「確かに」


「霊力が丹田へ戻るたびに 熱が強くなる感じがする」


刀姫も頷いた。


「私も感じる」


「霊力が普段より綺麗に巡ってる」


刀優も感心したように呟く。


「なるほど……」


「巡らせとは また違う感覚ですね」


少し離れたところで見ていた晴隆が、満足そうに笑った。


「流石は学園のエリートたちじゃ」


道秀も頷く。


「霊力操作の基礎ができていますからね」


しかし――。


一人だけ。


「うーん……」


太一が難しそうな顔をしていた。


「太一くん?」


「ごめん」


「僕 よく分からない」


「丹田に霊力があるのは分かるんだけど……」


「そこから上手く全身へ流せないんだ」


晴真は少し考える。


そして太一の後ろへ回った。


「じゃあ ちょっとだけ手伝うね」


「え?」


晴真は太一の背中へ、そっと手を当てる。


そして――。


ほんのわずかな霊力を流した。


すぅ――。


晴真の霊力が太一の中へ入っていく。


その瞬間。


「……あっ!」


太一が声を上げた。


「熱い」


「丹田の辺りが 急に熱くなった」


晴真は笑顔になる。


「そこだよ」


「その場所を意識して」


「今度は自分の霊力を そこから全身に巡らせてみて」


「分かった」


太一は目を閉じる。


意識を丹田へ集中する。


先ほどまで感じられなかった霊力の流れを探り――。


ゆっくりと全身へ広げていく。


ふわっ。


弱々しくはある。


それでも確かに、太一の霊力が全身へ巡った。


「できた……!」


「うん!」


晴真も嬉しそうに頷く。


「今度は丹田へ戻すんだけど」


「戻そうって考えなくていいよ」


太一が首を傾げる。


「戻さなくていいの?」


「うん」


「勝手に丹田へ戻ってくるって思って やってみて」


「……分かった」


太一は再び集中する。


全身へ広がった霊力。


それを無理に動かそうとせず、流れに任せる。


すると――。


すぅ……。


霊力が自然と丹田へ集まり始めた。


「あっ……」


再び丹田が熱くなる。


「戻ってきた!」


「そうそう!」


晴真は笑う。


「今度は さっきより少しだけ強く巡らせてみて」


「それから また戻ってくる」


「巡らせる」


「戻ってくる」


「それを何度も繰り返してみて」


「うん!」


太一は言われた通りに繰り返す。


一度。


二度。


三度。


繰り返すたびに、霊力の流れが少しずつ滑らかになっていく。


そして――。


ふわっ。


太一の全身を淡い霊力が包んだ。


「……できた」


太一が目を開く。


「できたよ!」


嬉しそうな笑顔を浮かべる。


「晴真君!」


「僕にもできた!」


「よかった!」


晴真も一緒になって喜ぶ。


だが――。


その光景を見ていた道秀の表情は、まるで違っていた。


目を見開き、太一を凝視している。


「……おい」


晴隆へ小さな声で問いかける。


「晴隆」


「お前の孫は なんじゃ?」


「ん?」


「あれは……」


道秀は信じられないものを見るように呟いた。


「霊門を開いたのではないか?」


晴隆の表情が固まった。


「……何?」


――霊門。


丹田と全身を走る霊脈。


その繋がりには、目には見えぬ『障り』が存在するといわれている。


それが――霊門。


霊門が塞がっていれば、丹田から霊力を上手く送り出すことができず、逆に全身を巡った霊力を丹田へ戻すことも難しい。


霊力操作を妨げる、いわば霊力の流れを塞ぐ門。


通常は長い修練を重ねることで、少しずつ開いていくものだった。


晴隆は太一を見る。


確かに先ほどまでとは違う。


霊力の巡りが明らかに滑らかになっている。


「いやいや……」


晴隆は額に汗を浮かべる。


「まさか」


「ちょっと背中から霊力を流しただけじゃぞ?」


「だから言っておる」


道秀も困惑していた。


「普通は それだけで開かん」


二人は顔を見合わせる。


そして同時に――。


ミヅチを見る。


「…………」


ミヅチは扇子で口元を隠していた。


肩が震えている。


次の瞬間。


「アッハッハッハッハ!」


腹を抱えて大笑いした。


「そういうことか!」


「いやはや!」


「晴真は本当に面白いのう!」


晴隆と道秀は、その反応ですべてを悟った。


「……やっぱり」


「開いたのか……」


その会話が聞こえた晴真は、嫌な予感を覚える。


恐る恐る振り返った。


「えっと……」


「僕……」


「なんかやっちゃった?」


少し間を置いて――。


「……また」


銀花が晴真の隣へ歩み寄り、満面の笑みを浮かべた。


「それでこそ晴真様です」


「えぇ?」


銀花の肩に座っていた桜花も、小さな胸を張る。


「流石です!」


「主人様!」


「そうかなぁ……」


晴真は照れくさそうに頭をかく。


褒められている。


だから悪いことではないらしい。


――ただし。


自分が何をしたのか。


晴真本人だけは、まったく分かっていなかった。

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