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第百一話 それぞれの剣の道


 クシナダとの立ち合いを終えた刀姫へ、一人の少年が歩み寄った。


小篠塚太一だった。


「刀姫先輩」


「素晴らしい剣術でした」


刀姫は照れくさそうに笑う。


「ありがとう」


「でも まだまだだよ」


太一は憧れの眼差しを向けたあと、少し寂しそうに笑った。


「僕も……」


「刀姫先輩みたいに霊力の質が良くて 霊力量も多ければ」


「もっと違う剣術も使えるんだけど」


その表情を見て、晴真は不思議そうに首を傾げる。


「太一くん?」


すると道満が静かに口を開いた。


「小篠塚家の小篠塚流剣術は 大篠塚流から分かれて生まれた剣術なんだ」


刀也も続ける。


「剣の技術は一級品なんだけどさ」


「代々 霊力の質や霊力量が少し人より劣る家系なんだ」


「だから それを補うために」


「一撃必殺を極める剣術になった」


晴真は納得したように頷いた。


「じゃあ」


「道満くんの居合と 刀也の戦い方を合わせたみたいな剣術なんだね」


道満は小さく笑う。


「まあ そんな感じだな」


刀也は苦笑した。


「人が気にしてることを さらっと言うよな」


晴真は慌てて首を振る。


「ご ごめん」


「でも 刀也には刀也の戦い方があると思うけど」


刀也は少し考え込み、


「……そうか?」


と呟いた。


その時、道満が二人を見比べて言う。


「刀也」


「太一と一度 手合わせしてみたらどうだ」


「何か得るものがあるかもしれない」


太一も嬉しそうに頷く。


「ぜひお願いします!」


刀也は笑顔になった。


「よし!」


「やろうぜ!」


二人は向かい合い、深く一礼する。


そして静かに間合いを測り始めた。


刀也は霊力を巡らせる。


巡らせ――。


全身の霊脈へ霊力が駆け巡り、身体能力が一気に高まる。


一方の太一は、木刀を右手で高く掲げ、左手をそっと添えた。


上段の構え。


表の世界の示現流に伝わる「蜻蛉の構え」にも似た、小篠塚流の構えだった。


互いに一歩も動かない。


張り詰めた空気。


次の瞬間――。


「はあっ!」


刀也が地を蹴る。


刀姫と同じように間合いを詰め、神速の疾風突きを放つ。


だが太一は動じない。


「おおおっ!」


上段から、一気に霊力を込めた袈裟斬りを振り下ろした。


突きと斬撃。


真正面から激突するかと思われた瞬間。


刀也は突きを途中で返し、太一の一撃を巧みに受け流した。


ギィィンッ!!


木刀同士が激しく鳴り響く。


刀也は楽しそうに笑う。


「すげぇ一撃だな!」


太一も負けじと笑った。


「これをいなしてくるのか!」


二人は距離を取る。


その時だった。


刀也がにやりと笑う。


「なるほど」


「そういうことか」


そう呟くと、木刀を右手で高く掲げ、左手を添える。


太一と全く同じ構え。


「……え?」


太一が目を丸くする。


「まさか」


「小篠塚流の構え……」


刀也は笑った。


「行くぞ!」


「ああ!」


二人は同時に踏み込む。


全身の霊力を一撃へ込める。


「うおおおっ!!」


「はあああっ!!」


二本の木刀が渾身の袈裟斬りを放つ。


――ドォォン!!


中央で激突した瞬間、衝撃が周囲へ弾け飛んだ。


土煙が舞い上がる。


勢いを殺しきれず、二人とも後ろへ吹き飛ばされ、そのまま尻もちをついた。


静まり返る修練場。


そこへ道満が歩み出る。


「そこまで」


「引き分けだ」


その言葉を聞いた瞬間。


刀也と太一は顔を見合わせ――。


「あははは!」


「はははっ!」


二人は声を上げて笑い合った。


刀也は満足そうに空を見上げる。


「久しぶりに楽しかったぜ」


晴真も笑顔で言う。


「やっぱり刀也は こういう戦い方のほうが合ってるね」


刀也は照れくさそうに頭をかいた。


「姉ちゃんの戦い方は確かに勉強になる」


「でも俺には合わねぇ」


「真似したって 姉ちゃんも刀優兄ちゃんも超えられねぇ」


木刀を肩に担ぎ、真っ直ぐ前を見る。


「だから」


「あの戦い方を踏まえた上で」


「俺は俺の戦い方を見つける」


そして太一へ向き直る。


「太一」


「今度 小篠塚流の稽古に参加させてくれ」


太一は嬉しそうに何度も頷いた。


「もちろん!」


「大歓迎だよ!」


その様子を見ていた晴真が、ふと思い出したように声を上げる。


「あっ そうだ」


「太一くん」


「急に霊力が増えるわけじゃないけど」


「毎日 瞑想を続ければ丹田が少しずつ鍛えられて 霊力量も増えていくと思うんだ」


「やってみない?」


太一の瞳が輝いた。


「本当!?」


「頼む 晴真君!」


「ぜひ教えてくれ!」


晴真は嬉しそうに頷く。


「もちろん!」


少し離れた場所で、そのやり取りを見ていたクシナダは静かに頷き、穏やかに微笑んだ。


「……うむ」


その隣では、一葉、二葉、三葉の三姉妹も顔を見合わせて微笑む。


「それぞれが自分の剣を見つけ始めていますね」


「誰かの真似ではなく 自分だけの剣」


「それが一番強い剣になります」


クシナダは修練場で笑い合う少年たちを見つめながら、小さく呟いた。


「裏佐倉の剣術の未来は――」


「実に明るいのう」

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