プロローグ
死の間際、視界は白く濁り、かつて戦場を駆けた豪胆な心臓は弱々しく時を刻んでいた。
最強の剣聖、ギルフォード。
一世紀を超えて剣を振り続けた男の最期は、驚くほど静かなものだった。
枕元に集まる弟子たちや王族の顔も、もはや判別できない。ただ、胸の奥に燻る後悔だけが、消えかけた意識の中で輪郭を強めていた。
「もう少し……旅をしておけば……よかった……」
血と鉄の匂いにまみれた102年だった。
守るべきもののために剣を振るい、気づけば一度も自分のために空を仰いだことはなかった。
その独り言を最期に、ギルフォードの意識は深い闇へと沈んでいった。
――はずだった。
「あら、そんなに後悔しているのね」
どこか悪戯っぽく、それでいて慈愛に満ちた透き通る声が、闇の中で響いた。
「いいわ。1000年後に転生させてあげる。第二の人生、やりたいことをやればいいわ。今度は、もっと自由にね」
その言葉が溶けるように消えると、猛烈な圧迫感と光がギルフォードを襲った。
「――っ!?」
叫ぼうとしたが、声が出ない。
肺に冷たい空気が流れ込み、反射的に体を震わせる。
驚いたのは自分の感覚だ。鋼のように鍛え上げた筋肉の感触はなく、骨は柔らかく、体は驚くほど小さい。
何より、視界に入る自分の肌が、信じられないほど白く、瑞々しく、滑らかだった。
「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ!」
(……おんな、のこ?)
ギルフォードの思考が停止する。
自分を取り上げている女性の手が、あまりに巨大に見えた。
いや、違う。自分が小さすぎるのだ。
状況を把握しようと手足をバタつかせるが、自分の意志とは無関係に、口からは「おぎゃあ!」という情けない産声が上がってしまう。
かつて大陸を震え上がらせた「剣聖の覇気」はどこへやら。
そこにいるのは、産着に包まれた、愛くるしい赤ん坊だった。
「見て、あなた。なんて可愛い子かしら……」
「ああ、綺麗な銀の髪だ。名前は――ギル、いや、ギルティナにしよう」
(待て。俺はギルフォードだ。102歳の、筋骨隆々とした老人のはずだ。それがどうして、こんな、ぷにぷにとした軟弱な……しかも女だと!?)
動揺のあまりジタバタと暴れるが、周囲には「元気な赤ちゃんだ」と微笑ましく笑われるだけだった。
1000年後の未来。
伝説の剣聖は、自らの股間にあったはずの「剣」を失い、代わりに底知れぬ魔力と美貌を秘めた「少女」として、新たな生を受けたのである。
(やりたいことをやれと言ったな、あの女神……。やってやろうじゃないか。女の子だろうが赤ん坊だろうが、俺の魂までは衰えていない!)
眠気に抗いながら、ギルティナ――かつてのギルフォードは、小さな拳を握りしめた。
それは、史上最強の美少女剣聖が誕生した瞬間だった。
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