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異世界ハンドメイド工房へようこそ  作者: のやま


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7.ヴァロア・オクソール

ヘルミは驚いていた。


新しく淹れなおした紅茶をヴァロア・オクソールに出したところ、丁寧にお礼を言って受け取って貰えたからだ。公爵家の直系であるにも関わらず、平民のヘルミに対してヴァロア・オクソールは身分を感じさせない態度で接してくれた。

呼び方が分からずにいると「ヴァロアでいい」と許しを貰った。


彼が来るまでの間にヘルミが受けた聴取の内容をエーリックから聞きながら、ヴァロアは優雅に紅茶を飲む…かと思いきや、黒い皮の背表紙の分厚い手帳を取り出し、勢いよくページを捲りながら「おお!」「そうか!」と派手なリアクションを繰り返している。

どういった状況か分からず静観していると、シセルがヘルミに声を掛けてくれた。



「ヘルミさん、オクソール公爵は先ほどもご自分で仰ったように、古代魔法研究省の副所長をなさっています。これは公爵家という身分に関係なく、オクソール公爵自身が幼少期より古代魔法を研究され、そのご年齢からは想像できないほど古代魔法に精通されているからなんです」



ヴァロアは公爵家にある膨大な蔵書を全て読み切り、国立図書館も制覇する勢いであるという。他にも魔法研究について様々な切り口が存在するが、ヴァロアは他の華やかな分野には目もくれず、憑りつかれたかのように古代魔法研究に傾倒していった。今では副所長になったのをいいことに早朝から深夜まで研究棟に籠ってしまうため、使用人を毎日のように困らせているとのこと。

以上を、公爵家の官吏らしく非常に上品な言葉に包んで、シセルは説明してくれた。


ヴァロアとエーリックの会話もひと段落付いたようで、「それではタハティさん」とヴァロアから声を掛けられた。



「私はあの出来事と、このサンキャッチャーというオブジェに掛かった雷魔法、そして製作工程。このすべてを総合的に判断した結果、君には、いや君の作ったオブジェには雷神トールトの祝福が掛けられていると思っている」

「雷神トールトの祝福…」



ヴァロアがあまりにも真っ直ぐに目を見つめてきたため、ヘルミは思わずヴァロアの手の中にあるサンキャッチャーに目線を移した。

今もその煌めきは変わらず、直射日光は当たっていないものの、内側からの光によって周囲にプリズムの光を散らしていた。



「タハティさんは七神の祝福についてご存じか?」

「詳しくは存じ上げませんが、絵本では読んだことがあります」



『何もない場所に巨人が立っていた。巨人は倒れ、7つの大地となった。暗闇に光がともり、雨が降り、草花が芽生え、雷が落ち、炎が上がった。動くものが生まれ、育ち、死に、世界になった。』


これはこの国の人間誰もが知っている、この国の創世の神話である。ヘルミの前世の知識で言うところの”世界巨人型神話”と酷似しているが、7つの『本物の』神が、そして7つの魔法が生まれたという点はこの世界に特有だった。そして、ヴァロアが言う七神の祝福についても言及がされている。


『冬が長く、太陽が長く閉ざされる大地に於いて、全ての神が、七神が光を求めていた。光を生み出す術を手にした人間には、祝福が舞い降りた。』



これに関してはヘルミも幼少期に絵本で読んだことがある。


光神バルヴァスから癒しのロッドを授かった者。

水神ニョルドゥから恵みの雨をもたらすゴブレットを授かった者。

土神ヨルムニスから土魔法力増強のガントレットを授かった者。

木神フレインから豊穣のペンダントを授かった者。

火神ラキから永遠に燃え続けるランタンを授かった者。

闇神ヘラリンから時を止める銀時計を授かった者。


そして、雷神トールトから雷の水晶を授かった者。


それぞれの話が絵本や本になっていたり、歌や劇になっている。昔話として語られているものばかりであり、話の内容はそれぞれ微妙に異なってはいるが、全て実際にあった出来事だという。

恵みの雨のゴブレット、豊穣のペンダントは王都の博物館に保管されており、不作が続く地域に貸し出されることがあるのだとか。

他にも、時を止める銀時計は国の魔法研究の最高学府が今もなお研究・解析を進めているが、一向に仕組みを解明できる兆しは無いという。



「これもご存じとは思うが、七神からの祝福は実際に起こった出来事だ。創世記と呼ばれる遥か昔から、300年ほど以前の近代に渡るまで。当時の人間が様々な形で残した記録を解読し、祝福とは何なのか。どういった機構で発動するのか。祝福を受けた人間はどうなるのか。こういったことも、我々古代魔法研究省が研究の対象としている。」

「祝福を受けた人間はどうなるのか、ですか…?」

「そうだ。タハティさん、あなたはこの国の歴史の中で300年来もの間見つかっていなかった、祝福を受けた生きている人間だ。しかも我がオクソール公爵家領には雷神トールトの伝承が数多く残り、オクソール公爵家は代々雷魔法の研究を受け継いでいる。私が生きている間に、私の目の前に!生きている祝福を受けた人間を目に映すことが出来ようとは!」



ヴァロアは紅茶を一気に飲み干すと立ち上がり、ヘルミの真横に素早く移動した。

そして、床に膝をつき、呆気に取られているヘルミの右手を握った。



「どうかこの私に協力して頂きたい。タハティさんはご両親を亡くされお一人であると聞いている。これを機会に王都か、公爵家近郊へお越しいただきたい。雷神トールトの祝福を受けし人間として、この国の、いやこの世界の、雷魔法の発展に協力していただきたいのだ!」



藤色の柔らかい瞳が、鋭くヘルミの眼光を射抜く。

聞きたいことは山ほどあるが、情熱は十分に伝わった。だがこれはいくら何でもやりすぎではないか。そして、貴族からこういった行動を取られたときの正しい返し方は何なのか。


つい固まってしまったヘルミを見て、エーリックが「ヴァロア様、いささか話が性急ではございませんか。その姿勢ではタハティさんも落ち着かれないでしょう。もう少しご歓談なさっては」と助け舟を出してくれた。

「それもそうだな」と、ヴァロアは素直に聞き入れると自席に戻り、ヨハンに紅茶のお代わりを催促した。



場が落ち着いたのを見計らい、ヘルミが口を開く。



「お話は分かりました。そのサンキャッチャーは、研究材料として持って行ってくださって構いません。作り方も、私の書いたメモ書きがありますので、書き写してお渡しします」



頷きながら話を聞いてくれる一同を少し心苦しく思いながら、ですが、とヘルミは続けた。



「私はここで自分の作りたいものを作っていきたいだけなのです。両親の遺してくれた工房も、お客様のことも大切にしていきたく思っています。雷神の祝福を受けたことも、そのサンキャッチャーを気に入って頂けただけだと思うのです。私はこれから、サンキャッチャー以外にも庶民が気軽に身に着けられるような、ちょっとした心の拠り所となるような装飾品作りをしていこうと考え始めた段階にいます。王都や公爵家領へとのお話は、私のようなものには大変光栄なことと思いますが、どうかご容赦いただけないでしょうか」



ヘルミの懸命な訴えを、ヴァロアは静かに聞いていた。


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