6.新たな出会い
黒い上等な光沢を放つ生地が金の縁取りで華やかに彩られている。内側のシャツは真っ白で、どこを取っても庶民には手の届かないような高価な品であることが一目で分かった。
その上等な制服を着た男性が2人、女性が1人、タハティ修理工房の入口で書状を掲げているのを、ヘルミは半ば現実逃避しながら眺めていた。
「ヘルミ・タハティさん。雷神祭の落雷に関してお話を伺いたい。話の内容により、王都への召喚が命ぜられています。これはオクソール公爵家からの書状です、ご了承ください」
***
「ヘルミちゃん、本当に大丈夫?良かったらうちの息子も呼んでくるよ、私も一緒に話を聞こうじゃないの」
「ありがとうミラさん。でも大丈夫、何も悪いことはしてないから、お話するだけよ。今日預かった温冷コップ、いつも通り1週間後の引き取りでお願いします」
オクソール公爵家から官史が訪ねてきた時、丁度タハティ修理工房は来客中であった。同じ街の修理工房で、大型魔法道具を取り扱っているスンドベリ大修理工房の女主人である、ミラ・スンドベリだ。
今日の様に、細々した日用品を定期的に持ち込んでくれる。自分の工房でもきっと直せるだろうに、どうして?と昔聞いたことがあった。「魔法の使い方も見えているものも違うから。自分のところで直したらやりすぎて全部壊しちゃうって」とのことだった。ミラの優しさだと思い、ありがたく丁寧に修理させてもらっている。
ヘルミの両親が亡くなった時に真っ先に駆け付けてくれたのも、この人だった。
今も何かにつけてヘルミのことを気にかけてくれる。ヘルミからしても、周囲の中で一番信頼できる年上の女性だ。
不安そうに何度も振り返るミラを手を振って見送り、ヘルミは官吏の3人を1階の応接室へ通した。遠慮されたが4人分の紅茶を準備し、一番に自分が口を付けた。
3人はそれぞれ、エーリック、ヨハン、シセルと名乗った。口火を切ったのは、一際大きな階級章を肩に付けたエーリックだった。
「それで、タハティさん。率直に申しまして、先日の雷神祭で青天にも関わらず落雷があった。落雷による怪我人は無かったが、1000人以上の人間が『空から笑い声が聞こえた』と証言しています。その落雷の中心にいたのがあなたで、変わった宝飾品を持っていたとの目撃証言が多数寄せられています」
「はい、私の方からは何も隠すことはございません。その時私が持っていたのがこちらです」
ヘルミは自室からサンキャッチャーを持ってきていた。未だに雷魔法の煌めくサンキャッチャーを机の真ん中に置くと、官吏それぞれから感嘆の声が聞かれた。
エルサの名前は出さず、エルサと出会った日からあったことを順を追って説明する。
一通り話し終わった後で、官吏の1人、シセルが手を挙げた。
「ヘルミさん、こちらはどうやってこの形に加工されたのですか?私も知人にハーツィ晶の職人がおりますが、あれは基本的に型に沿って作る物。ちょっとした出っ張りを取る程度なら目立ちませんが、面を傷ひとつ無く加工することは困難であると聞いたことがありますが」
シセルの質問に、ずっと真顔を作っていたヘルミは思わず口元がほどけてしまった。
そう、サンキャッチャーを作るにあたって、ヘルミが一番苦労したのがカッティングである。どういう理屈か、ハーツィ石は研磨することは出来るが、どんなに磨き上げても光沢を放つまで仕上げることは出来ず、曇ってしまう。研磨剤の種類を色々と試してみたが、形を整えることは出来てもそれ以上のことは出来なかった。
そこでヘルミが考えたのが、前世では誰でも知っていた”レーザーカッター”である。幸いなことに、小さな日用品の魔法道具の修理を幼い頃から練習してきたヘルミにとって、魔法を細く発射させることは難しくはなかった。そして魔法を使う上で何より大切な”想像力”も、実際にレーザーカッターを見たことがあるヘルミにとっては造作ないことだった。
そして運良く、レーザーカッターでハーツィ石を切断すると、断面は宝石のごとく輝きを放った。この技術を利用し、いくつもの失敗作の後にサンキャッチャーを完成させたのである。
”レーザーカッター”はこの世界に存在しないため、ヘルミは雷魔法を細く発射し、ナイフのようにしてカッティングを行ったと説明した。
シセルは感心した表情で頷いていた。
「なるほど、雷魔法とハーツィ晶は親和性があると聞きますし、それでうまくカットできたのでしょう」
「それとタハティさん、この…サンキャッチャー?に掛かっている雷魔法ですが、雷が落ちた後いつの間にかこのような状態になっていたと」
「はい、広場が大変な騒ぎになって急いで帰宅したのですが、鞄から取り出すとそのようになっていました」
「なるほど、そうですか…誰かに魔法をかけられたりはしませんでしたか?」
「特に周囲を気にしたりはしていなかったので、気付かなかっただけかもしれませんが、特には」
シセルに引き続いてヨハンからの質問に答えていると、突然ドンドン!と勢いよく扉が叩かれた。
思わず向かいの3人と顔を見合わせる。
ミラを見送った時に、扉の看板を閉店にしておいたはずだ。そうでなくても、ヘルミの記憶にある限りで、修理工房にこういった形での来客は無かったはずだ。
そうこうしているうちに、ノック音とともに「おーい、誰かいるだろう!タハティさんはご在宅か!?聞きたいことが--」と、男性の声が響いてくる。
それを聞いて、記録を取っていたエーリックがため息をつき、ヨハンに迎えに行くよう指示を出した。
「タハティさん、聴取の人間がもう一人増えても?どうやら待ちきれなかったようで」
「構いませんが…どなたですか?」
ヨハンが一人の青年を伴って戻って来た。
セージグリーンの髪に、藤色の柔和な瞳、整った顔立ち。官吏の3人より、明らかに上等な衣装を身に纏っている。
ヘルミは思わず立ち上がり、頭を下げた。
「いや、堅苦しくなくていい。私はヴァロア・オクソール。古代魔法研究省の副所長をしている。」
彼はそう告げると、「茶でもいただこうか」と呟き、ソファに腰掛けた。




