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異世界ハンドメイド工房へようこそ  作者: のやま


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3.虹の作り方

短めなので2話更新しております。

ハーツィ晶への情熱を燃やすエルサは、自分の知っている全てを注ぎ込む勢いで、ヘルミに様々な知識を教え込んでくれた。

エルサ自身については、やっと基礎的な作業を完璧にこなせるようになったところだという。次の祭りからは自分の魔法に合わせて、分量などを少しずつアレンジしていくつもりとのこと。



「もっといろんな人にハーツィ晶を見て、知って欲しいの。ただの綺麗な置物じゃない!職人の魂や、先人の知恵が沢山詰まっているの、これはロマンの固まりよ!」



辺りはすっかり暗くなったが、エルサの熱量に衰えはなかった。そしてもちろん、ヘルミもだ。

途中で二人とも空腹になったため、ヘルミが祭りで買っていた食べ物を分け合って食べた。

工房長が途中様子を見に来たが、「新しい職人候補ならいつでも歓迎だ」とだけ告げるとエルサに工房の鍵を渡して帰ってしまった。

いかにも職人といった風貌の、体格が良く強面の男性だった。


必ず天秤を使い、大まかにではなく、少しの誤差も許さずに分量を量ることが美しいハーツィ晶への第一歩。エイクスニルの水が4に対し、水晶の粉が6。攪拌は全体が均一に混ぜられるように、細い棒ではなくヘラのようなものを使うこと。


そして何より大切なのが、7つの魔法すべてをバランスよく注ぎ込むこと。

ひとつの魔法を調節しながら使うことはあったが、すべての魔法を少しずつ使っていくという未知の体験にヘルミは苦戦していた。



「あれ、なんだかボロボロになっちゃった…」

「それは魔法の力が強かったの。少しずつ、どの魔法も満遍なく、ゆっくり溶け込んでいくイメージでね」



エルサ曰く『一番難しい作業なので、すぐに出来たら職人が泣く』とのこと。

隣で同じ作業をしているエルサの手の中で、目まぐるしく魔法が回転していく。

光、水、土、木、雷、火、闇。

その日の気温、湿度、素材の状態、自分の体調によっても調節が必要だと説明を受けた。まるでパンのようだ、と思わず呟くと、確かにね、と返事が返ってきた。


固まったものの崩れてしまったり、いつまで経っても固まらなかったり。何度かの失敗の後、これで最後にしよう。と、ヘルミは左でヘラを動かしながら、自分の右手の平に集中した。



「肩の力を抜いてね。リラックスして、ふわふわ撫でるように魔法を動かして」



自分の作業に一旦キリを付け、ヘルミの背後に立ったエルサが落ち着いたトーンで声をかけてくれた。

その声を半分聞きながら、半分夢心地でヘルミは魔法を展開した。


この中にドライフラワーや、色ガラス、ビーズ、小さなパーツを閉じ込めて、一体どんなアクセサリーが作れるだろう。

自分が前世で作った物だけでも、ペンダントトップやバングル、指輪、バレッタ、キーホルダー、ブローチなど…。思い出しきれないほどの数を作ってきた。

この世界にもピアスやイヤリング、首飾り、腕飾り、髪飾りなど、前世の知識にあるような服飾品がある。ただし銀製品・金製品が大多数で、貴金属に手の届かない庶民は工芸用の紐にビーズを通したり、鉱物の原石を編み込んだりして身に着けていることがほとんどだ。


エイクスニルの水、水晶の粉はアクセサリーの元になると考えると、かなり安価で手に入る。あとはどのように希望の形に成形するかだ。前世にあったシリコンの型のような物は、この世界では見かけたことが無い。ハーツィ晶作りに使用する金属の型を参考に、何か作ることはできるだろうか。

いや、加工する方法はきっとある。自分だって10年近く修行してきたのだ、修理工房で培ったスキルが必ず役に立つ。



「ヘルミ!ヘルミ、早く型に入れて!」

「えっ、あっ、出来てる!」



妄想を膨らませているうちに、魔法が上手く展開できたようだ。エルサが準備してくれた型の中に、こぼれないよう液体を注ぎ入れた。



「凄いじゃない!なかなか1日で液体にできないのに!ヘルミ、あなた才能があるかもしれない。このまま私と一緒に職人にならない!?」

「えーと、エルサ、長い時間付き合ってくれてありがとう。これってどれくらいで固まるかな?」



作業中何度も勧誘を受けたので、ヘルミはあっさりと躱せるようになっていた。

エルサは冗談っぽくため息をつき、「本気だからね」とヘルミの目を見た後、



「このサイズだと大体2時間くらいで固まるの。途中で開けちゃうと形が崩れるから、開けないように」



と、教えてくれた。


夜も深まり、治安がいい町とはいえ一人歩きは怖い時間帯だ。

エルサはこのまま朝までハーツィ晶作りの修行をするとのことで、ヘルミはその隣でアクセサリーのアイディアをノートに纏めていくことにした。

簡単なイラストと、素材についてのアイディアを書き連ねていく。

小さな灯りがともる薄暗い工房に、時折虹色の光が広がっては消えていく。

その光景をも目に焼き付けながら、ヘルミとエルサの夜は更けていった。


ヘルミが気付かぬ間に、エルサはヘルミの作ったハーツィ晶を型から取り外す。記念すべき1個目だ、きっとクラックもインクルージョンも入っているだろうけど、喜ぶはずだ。

取り外したハーツィ晶は、想像の通りクラックが無数に入っていた。エルサはそのまま、ハーツィ晶を光に翳した。

その亀裂は、ただの亀裂に非ず。ランプの光を受けて、虹色に光り輝いていた。



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