1-12
かの足利義満が建立し、京都市北区に位置する金閣寺こと北山鹿苑寺。
京都の静かな山間に佇み、金色に輝くその姿は、四季折々の風景と調和し、訪れる者を魅了してやまない。
そして夜の金閣寺は、昼間の華やかな絢爛さとは異なり、静かで妖艶な美しさを人知れず顕現している。
月の光が池の水面に反射し金閣寺の金色の壁を妖しく照らし出し、池の水は静かに揺れ月の光が波紋となって広がり金閣寺の影を揺らめかす。
そんな幻想的な情景の中に、今宵は明らかな異物が混じっている。
かつて「金髪の野獣」との異名をとった怪人は、不遜にも土足で本堂にあがり、腰を下ろしていた。
彼の髪色は篝火の炎に反射して、黄金の波が激しく揺れる海のように輝いていた。
獅子のごとき雄々しき様であったが、荘厳たる伽藍のなかでは完成された調和を乱すノイズとなっている。
待ち人が来るまではまだ少し時間がかかるだろう。先ほど金属製の容器から出したGPS発信機を手で弄ぶ様は、普段であれば彼の神経質さを表しているのかもしれないが、今の彼は心から楽しそうにしている。
彼の目の前には二つの木製の箱。
一つはワインボトルが入りそうなくらいの大きさの新しめの箱。おそらく蘭丸から回収した猿の手が納められているのだろう。
もう一つは先の箱より二回りほど小さく、また何十年という時の流れを感じさせる。
実際にハイドリッヒが1950年に、この本堂にこの箱を隠して以来、70年以上の時が経っている。
1950年、この金閣寺の本堂は放火により一度、全焼している。この放火事件自体はハイドリッヒとは全く無関係のものであったが、当時、この木箱の中身の隠し場所に悩んでいたハイドリッヒは、金閣寺消失の報を聞くや、ちょうど良いとどさくさに紛れて秘匿した。
そんな理由で選んだ隠し場所であったが、70年以上の時を振り返ってみて、これ以上の選択肢はなかったと感じている。
常人の倍近い時を過ごしたこの数奇な人生に、ようやく何かしらの決着がつく。
その舞台としてこの異国の金色の館は相応しい。あとは急ごしらえの助演の格が、主演である自分とこの荘厳な場に対して、物足りてないことを祈るばかりだ。




