↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/40

28.旅立ち前夜

誤字脱字、拙い文章すいません。

今の私を指す言葉は世界のどこにも存在しない。


生まれた時に名前は与えられなかった。


与えられた役職もなくなった。


私という存在は不確定で不安定だ。


名は体を表すというが、名前のない私は体までもが希薄になっていくようだ。


思考が浮く。


地に足が付かない。


私を構成する様子が霧散していく。


存在しているのに、存在していない。


だがそれは今まで通りのことのはずだった。


昔の状態に戻っただけ、ただそれだけの事のはずだ。


なのにこれほどの喪失感を感じてしまう。



きっとそれは知ってしまったからなのだろう。


私を呼ぶ声を。










「一通りは買い揃ったかな」


着替えなどの生活必需品を床に並べ確認する。


明日は出発の日だ。


「…武器はいるかな」


前回まで使っていた剣はスキルで矢を変化させたものだったので矢に戻ってしまっていた。


「…一応買いに行こう」


家を出るとすっかり日は落ち、夜風が肌を震わせた。


街灯などは無く、正確にはその残骸のようなものはあるのだが、月明かりだけが夜道を照らす。


人間とは逞しいものでわたし達の戦闘の後はもうほとんど残っていない。


わたし達が破壊したと思うと胸が痛くなる。


わたしもこの国の修繕に関わったが罪悪感は残っている。


いつかこの国の為に何かはしたいと思う。


「神崎さんをやる気にさせるとかかな」


ここまで文明の発達したなか、月明かりだけを頼りに歩くのはとても新鮮に感じられたせいか。


どうやら、センチメンタルになっているらしい。


小さな国だし、狭い街だ、数分で武器屋には着いた。


まだ営業時間らしく、店の灯りがついていた。


「すいません、武器を探しに来たのですが」


店には人影が無く、静まり返っている。


「…誰もいない?」


そこでふと足に何かがぶつかった。


わたしは動いていなかったので向こうから突進してきたのだろう。


下を見ると、幼い女の子が足に抱き着いていた。


「えっ、女の子?」


「よしっ!アイ、よくやった!離すなよぉー」


店の奥から店主と思わしくい男が出てくる。


身体は大きいが細目でなんとも優しそうな見た目をしている。


アイと呼ばれた女の子は顔をわたしの足にうずめたまま頷く。


「あのー、この子は?」


「へい、いらっしゃいませ!今日はどんな要件ですかい?」


男は手をたたき接客を始める。


「いや、この子は一体?」


「剣をお探しですか?でしたらこちらの品なんてどうですかね、今ならお安くしときますよ!」


私の疑問をよそに男は剣を持ち出して手に握らせてくる。


両方の腕にずっしりと重たい感覚がする。


勇者としての身体能力を失ったせいだろう、見て目相応の筋力になっているようだ。


「あっこちらの剣なんかもどうですか、切れ味だけでなく見てくださいこの美しい装飾を!武器として使えるだけでなくインテリアとしてもお勧めですよ!」


更にもう一方の手にまで剣を握らされる。


「いや一本!一本でいいですから!」


思わず叫ぶと予想外の返答が帰って来た。


「え、買ってくれるんですかぁぁ!!」


店主は大きな身体を震わせて泣いて喜んだ。




事情を聴くと簡単な話で魔法が消え、魔物も消えたため武器の売り上げが壊滅的なのだとか。


そこで考えた打開策が娘のアイちゃんに足止めをしてもらいその隙に商品を売りつける作戦だったらしい。


確かに幼い女の子が足にしがみついていたら身動きはとれないだろうがその間に売りつけるとは、なんとも極悪非道な売り方に感じてしまうが。


それも娘を養うためにやったことだと思うとなんとも非難できない気持ちになる。


「とまぁ、私どもも不景気でして、すいませんでした」


「いえ、事情も事情ですし」


「えぇ、うちの子もこれから食べ盛りで稼ぐぞって時に突然魔物が消えて商売あがったりですよ」


店主は娘を撫でながら話す。


仲睦まじい親子の形は見ていて気持ちのいいものだ。


「この子も手伝いたいって言ってくれてね、親としてはそれがうれしくてうれしくて」


「それであの作戦ですか」


「はい、実はあれも娘が考えてくれたんですよ、私がお客さんを引き留めるからそのうちにたくさん売ってと言ってくれてね」


「はは、あれは逃げれませんよ」


「本当に申し訳なかったね」


「いえ、そもそも武器を買いに来たのはその通りなので」


「……こんなことを私が言うのはおかしいと思うが一体どうして剣なんか買いに来たんだい?」


「それは…」


わたしは言葉に詰まってしまう、確かに店主の言う通りではある。


魔物も消えたのだし危険などないはずだ。


それでもなぜか不安に感じてしまう。


突如として行方をくらませた巫女の真意もきになる。


だが何といえばいいだろうか。


曲りなりにも世の中は平和になったのだ、あまり不安にさせるようなことは言いたくはない。


「インテリア用ですよ」


笑顔で答える。


「元々冒険者をやっていて剣がないとどうも落ち着かなくて」


嘘をつくのは少々心が痛いが仕方ないだろう。


「…そうですか。それではなにか要望などはありますか?」


店主は何も聞かずに訪ねてくれた。


「そうですね、少し短めで軽い剣をお願いします」





その後店主が選んでくれた剣を買い、わたしは家に戻ることにした。


「お姉ちゃんまた来てね」


買えり際のアイちゃんの言葉を思い出す。


「もちろん!」


あの場ではそう返したし、もちろんそのつもりだ。


だが、なぜか不安が拭えない。


右手に持つ剣の重みがわたしに戦いの恐怖を与えているのか、勇者だったころの記憶が思い出される。


多くの人々を殺した記憶。


忌まわしい記憶だ、今の自分にはあの頃どうして人間を殺せたのかわからない。


まるで、そう魔法にかかっていたような気持ちだ。


「駄目だ駄目だ」


そう言って思考を一度遮る。


罪悪感からか自分の責任を何かに押し付けようとするのは良くないことだ。


たとえ本当に魔法にかかっていたとしてもわたしが殺したという事実は変わらないのだから。



行きと同じ夜道に吹かれているはずなのに肌寒く感じる。


月明かりは雲で隠れ、夜道に光は射さない。



家に着くとドット疲れが押し寄せてきてそのままベットに倒れこむ。


直ぐに意識は遠のいていき消える。


あまり心地のいい感覚ではなかったが疲労がたまっていたせいなのか、その感覚に意識を預ける。


次に意識が戻った時に見たものは地獄そのものだった。



熱された空気が喉に吸い込まれる度に呼吸が苦しくなる。


四方からは悲鳴が鳴りやまない。


嗅覚は生臭い血の匂いを捉え続けている。


足元に転がる無数の建物の残骸が足を傷つけ、血が流れる。


見渡す限りに広がる火の海は生きているように揺らめいている。


わたしは名前を叫んでいる。


正確に名前ではなかったが、その人を表すたった一つの名前を叫ぶ。


何度も何度もその名を口にするが返事が来ることは無い。


あるのは降り続ける血の雨と死体の山だけだ。



これはきっと現実ではないのだろう。


痛みはある、だが、身体は思った通りには動かない。


決まった動作を決まった手順で動いているだけだ。


記憶もない。


それでも身体は動作を続けている。


この感覚をわたしは知っていた。


だが前回の時よりも確実にリアリティーが向上している。


前回よりもその日に近づいたからだろうか。


これで確信に変わった。


わたしには未来を見るユニークスキルが宿っていると。


いや、この肌を刺す感覚はさしずめ未来を体感スキルと言ったところか。


そしてもう一つ確信する。


巫女さんが危ない。

続きます。

気に入っていただけたらブクマ、評価よろしくお願いします!

読んでいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。